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花乞・2
人里離れた山の中腹にぽつんとそびえる平屋建ての民家。側には畑が広がって、季節の野菜などがたわわに実をつけている。
「蔓様も無事に記憶を取り戻されたそうですよ」
「そうか」
「これであちらも安心ですね」
囲炉裏を囲んだ夕飯時。静かな部屋にぱちぱちと火がはぜる音が響く。
「槐様、おかわりはいかがですか?」
「いやいい」
藍色の質素な着物を着た美丈夫が首を振った。
そうですか、とぼくは自分の膳を横にどける。
「すぐ湯を使いますか?準備して参りますね」
「まだいいよ。いいからおまえも食べてしまいなさい」
「ですが、」
「後で二人で入ればいい、清白」
普段はあまり動かない槐様の白皙がうすく綻んで、どきりと胸が鳴る。
か細い声で「…はい」と返すのが精一杯だった。
***
普段は平民に擬態しているが、その正体は御館様直属の隠密衆。その中でも御頭に次ぐ位置に立つ槐様の身の回りのお世話をすることが、僕に与えられた役目だ。
寝具の上、湯上がりの槐様の足の間に伏せる。
「ふ、んんっ、んぅ」
「ん、清白、上手になったね」
少し息を弾ませた槐様にさらりと髪を梳かれて、ふるりと震えてしまう。
寒いわけではない。槐様が囲炉裏の火種を移してくれたから、部屋の中は十分暖かい。
「咥えながら感じてる?触ってないのにもう濡れてるよ」
「あぁ…っ!」
いたずらに足先で下腹に触れられて、甘えた声が漏れる。
それを指摘されればカッと身体が熱くなった。
槐様のものから口を離してしまい、咎めるようにぐいと顎を引かれて潤んだ目で見上げる。
はじめは側仕えという役目に夜伽が含まれていることすら知らなかった。なのに、いまでは奉仕しながら己も快楽を拾ってしまっている。
「清白」
白い夜着に落ちる艶やかな長い黒髪。槐様は美しい。けれどひとつも女性的なところがない。
そのまま口づけられ、槐様の舌に愛撫されながら、送り込まれる唾液を少しずつ飲み込んでいく。
「ま、まってください…!」
押し倒され、足を抱え上げられたところで声をかける。槐様は「なに」と不満そうだ。
「あ、あのこれ、」
ごそごそと枕元に用意していたものを取り出すと、槐様の柳眉が訝しげに持ち上げられた。
「なにこれ?」
手渡したのは今日屋敷で辛夷様がくれた小瓶だった。
「あの、辛夷様からいただいて、その…炎症止めの成分も入っているそうで、事後の治りも早いからって…」
言いながら、顔が赤くなるのがわかる。
元々色事には疎く、話し相手は菘だけだったぼくにはまったく縁がないもので、なんでも色子衆たちも贔屓にしている薬らしい。
薬のことを説明しながら、始終視線の合わなかった辛夷様も、きっとこんな気持ちだったのかも。いたたまれなくてなんだか汗がでる。
「ふうん?」
槐様はたぷんと手の中でその小瓶を揺らすと、あっさりと放ってしまった。
「辛夷も使っているものならおかしなものではないだろうけど、これは後ね。いつもみたいに舐めて解してあげる」
「え?や、ぁあん…っ!!」
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