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九、大事なのは気持ち…? 後
「碧…言っとくけど、未成年同士のセックスは逮捕されねぇ。ただ、嫌がるのを無理やり犯すのは強姦だ。気持ちよくても強姦」
「本当に…?」
「…何回も言わすなよ。俺が嘘ついたこと——……教えずにセックスはしたけどよ…」
柊さんは珍しく尻すぼみにそう言って、顔を逸らした。でも柊さんに教えてもらったことは嘘じゃないと思う。強姦した人が自分に不利になる事実を教えるとは思えない。
「僕…柊さんが嘘ついてるなんて思ってないです…。さっきは逮捕されると思って怖かったから…でも、セックスしても大丈夫なら、柊さんとするのはすごく嬉しくて…」
「気持ちいいから?」
「はい…」
「気持ちいいから俺が好き?」
「はい」
柊さんは「しかたねぇか…」と小さく呟いて、僕を見上げた。
「じゃあ、北條はおまえが喜ぶような言葉を言ったことあるか?」
竜ちゃんが? どうして竜ちゃんが出てくるんだろう。疑問に思いながらも僕は竜ちゃんと過ごした時を思い返した。
僕が喜ぶような言葉…。二人でしていた行為——セックスの後は良く褒めてくれた。紅茶も美味しいって。他は何があっただろう…。よく覚えていない。
「……俺は、碧の顔も体も可愛いと思うし、抜けてて真面目な性格もすげぇ好き」
「え…」
「嬉しくねぇ? もう一回言う? 碧は顔も可愛いし体もエロイ。俺の腕ン中にすっぽり入るサイズなのがいい。抜けてて天然で、でも真面目で約束はしっかり守ろうとして…そんな碧が可愛いくて好きなんだよ」
僕が可愛い? 可愛いくて好き?
柊さんに何度か言われたことがあるけれど、褒められるのは慣れない。むず痒いようなこの感情は嬉しいっていうことなのかもしれない。顔に熱が集まってくるのを感じながら、僕はどう反応していいものかと柊さんを見つめた。
「気持ちイィとか良くないとかそんなことの前におまえが好き」
「…気持ちよくなくても…?」
「……好きだから気持ちいいんだろ?」
「好きだから…?」
どうしたらいいんだろう…?
柊さんのこと好きだと思っていたのに…、気持ちいいから好きだって…。じゃあこの思いは何なんだろう。
「柊さん…僕…どうしよう…。好きじゃないの…? 僕は柊さんの事が好きじゃないの…?」
「そっち行くか…」
柊さんは溜息を吐きながらも、僕にさっきとは違った穏やかな目を向けてくれる。良かった。いつもの表情を見るだけで、荒んだ心がゆっくりと落ち着きを取り戻していく。
「まず、『気持ちいい』と『好き』を切り離して考えろよ。じゃぁ、碧は俺の顔見てどう思う?」
「柊さんの…顔? す、すごくカッコよくて…特に目が綺麗…」
「体は?」
「…せ、背が高くて…筋肉もあって…男らしくて…。…指…指が長くて…触られると気持ちよくて…ドキドキする…」
「性格は?」
「性格…? えっと、ちょっと初めは怖かったけど、本当は優しくて、僕に親切にしてくれる…とってもいい人…」
僕が答えると、ふっと柊さんが笑った。
「馬鹿正直……んで、そんな俺といてどう思う?」
「う、嬉しい。ドキドキするけど…すごく嬉しい」
「なら、それでいいんじゃねぇ? 俺といると嬉しい。ドキドキする。好きって言葉よりもその気持ちの方が大事だろ?」
「気持ちが、大事?」
「あー…好きって言葉に囚われるな、ってこと。おまえが俺といたいと思えば、俺といればいい。簡単なことじゃねぇ?」
「僕が柊さんといたいなら、いればいい…? 本当に?」
「そ。俺はおまえと一緒にいたいと思うから一緒にいる」
「柊さんが…僕と…」
柊さんの手が伸びてきて、僕の頬を撫でた。
「自分の気持ちを信じろよ。俺がどうこう言うまでもなく、おまえはちゃんとわかってる。小さい間違いなら俺が正してやるから、気にすんな」
頬に添えられた手に引き寄せられる。柊さんと目が合って、僕が目を瞑ると柊さんの唇が触れる。柔らかくて暖かいその感触はいつもと変わらない。
ぎし、と音を立てて、柊さんが僕を押し倒しながら上に覆いかぶさってくる。
「セックスすんの嫌か?」
「嫌じゃ、ないです…。柊さんとするの…好き…」
「なら…俺と一緒」
柊さんの目を細めた柔らかな表情。心が温かくなって宙にふわりと浮いたみたいに感じる。時折感じるこの感覚は何て言う感情なんだろう。
柊さんの髪が頬を撫でるのを感じながら、柊さんの綺麗な瞳にただただ魅入っていた。
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