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「は、春川っ!」 「あー?」 講義が終わり廊下を歩いていた時、声をかけられた。聞き慣れた愛しいその声に、一瞬にして胸が締め付けられる。 「なんか、用?」 平然を装って、冷たい視線を琥太郎に向ける。 「話…ある…んだけど…。」 本人は隠してるつもりだろうが、手が震えていること…俺にはバレバレだった。 「…はぁっ、めんどくせえし、俺にはない。」 ああ、勇気出してんなぁ…琥太郎。 「少し、だけ…。」 「…五分な。」 内容なんて、わかりきっていた。 それでも時間を与えてしまったのは、俺が琥太郎に未練があったからだ。 琥太郎にも自分自身にも、とことん甘いなと少し呆れた。 「んで?話ってなに。」 誰もいない薄暗い講義室に、二人きり。シン…と静まり返る中、声を発したのは俺。 はやく、話を…琥太郎との関係を、終わらせなければ。 「あ…えっと、髪色…また変えたんだ、ね…。」 わざとピリついた空気を醸し出す俺に耐えながら、押し出すように呟いた、琥太郎の最初の言葉。 元々喧嘩ばかりしていた俺の髪は明るく派手なもので、琥太郎と付き合うようになってから、喧嘩もやめて、大人しい色に染め直した。 その変わり様に顔を引きつらせたのは、きっと無意識だと思う。 「別に俺の勝手じゃね?本題はなんだよ。」 琥太郎と話していると、嫌でも情が湧いてしまうようで、早々に話を切って催促した。 「あ、あの…、おれ…っ、」 琥太郎はまだ、俺のことを信じている。 このやり方が正しいなんて思わないけど、今の俺にはこうするしかないんだ、だから…。 「やっぱ、お前が急にこんな態度、おかしいと…っ、」 「"死んでしまえ"…なぁ?」 「…っ、そっ、んなの…、本気で言ったんじゃ…!」 だから、どうか俺を嫌いになって、許さないでくれ。 「ああ、そうだよな。本当に好きなら、本気で言ってないとわかってても、すげえ傷付くもんだよな。」 ごめん、ごめんな…琥太郎。 「はる…、ぅぐ…っ!?」 「ハハッ、びっくりするほど何とも思ってねえから安心しろよ。…お前が思ってるより、俺はお前を好いてねえよ。わかったら、もう俺に話しかけんじゃねえ。」 乱暴に胸ぐらを掴んで冷たく言い放つと、琥太郎は目を見開いて固まる。そして、次第にカタカタと唇を震わせて、目に涙を溜めた。 「じゃーな。」 パッと手を離し、後ろ髪を引かれる思いで俺は歩き出す。 振り向いてしまえば、あいつの涙を拭き取ってやりたくなる。キスして、ごめんって…全部無かったことにしたくなる。でも、俺の病気はなかったことにはならねえから…。 「は、春川っ!」 「…チッ、話しかけんなって今、」 「顔の傷、ごめんっ!如月から聞いて…っ、俺…!」 琥太郎が謝ることじゃない。これは、俺が如月から受けるべき罰だ。 琥太郎は、本気で心配して罪悪感も感じてるんだと思うけど、俺の足を止めたくて必死なのが痛いほど伝わった。 「本気で悪いと思ってんなら、もう俺に関わんな。」 俺の声は、震えていなかっただろうか。

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