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あれから、琥太郎が俺に話しかけてくることはなくなった。というか、話しかけてきても無視してたら目も合わなくなった。 如月からは、前まで会うと責め立てられてたが、最近は冷たく軽蔑の眼差しを向けてくるだけで、何も言われなくなった。 「…ありがとうございました。」 元々友達も多いわけじゃなかったから、その辺りは楽だなと思いながら、検査のために病院に来ていた俺は、医者にお礼を言って診察室を出る。そして、伝票を手に会計場所へ行く途中。 「え…、春川?」 「……千都世。」 バッタリ千都世と会ってしまった。 「え、お前どこか悪いの?頭?」 「うるせえな。お前こそ、馬鹿だから病院なんて無縁だろがよ。」 「俺は、ばあちゃんのお見舞いですぅ〜!」 にひひっと笑う千都世に、少し心が締め付けられる。病気のことは千都世にも言うつもりがなかったから、この場を適当に誤魔化さなければならない。 まぁ、こいつは馬鹿だから、それらしい事言っておけば大丈夫だと思うけど。 「ほらな、やっぱりお前は病院要らずだろ。」 「うるせえわ!んで、お前は?」 手に持ってる伝票をチラリと見た千都世に、内容がわからないよう、さり気無く紙を伏せる。 「俺は、鼻炎の薬が切れたから貰いに来…」 「春川さーん!すいません、やはり後日、親戚方でもいいので呼んでもらって、ご病気の事を伝えられた方がいいかと…。」 「は…?病気?」 上手いこと誤魔化そうとした途端、診察の時に一緒にいた看護師が駆け寄ってきて、早口にそう言った。その瞬間、千都世が怪訝な顔をし、俺を見つめる。 「えっ、あっ、お友達がいらしてたんですね…!?す、すいません…!」 俺たちに流れる妙な空気に、慌てて頭を下げる看護師。俺の嘘も、もう通用しない。 「…いいっすよ。あと、俺親戚とかもいないんで、大丈夫です。」 「そ、そうですか…、わかりました。」 では…、と軽く会釈して、気まずそうに看護師は戻って行った。

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