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それは突然だった。
「…っは、…はひゅ…っ」
「え……っ、春川っ!?」
いつもみたいに、琥太郎と家にいた。
コーヒーを淹れようと、キッチンへ向かう琥太郎の後を付いて行こうとした時、急に息苦しさが俺を襲い、膝から崩れ落ちた。
「え…、や、やだ…っ、はるかわ、やだっ!」
「はー…っ、は…っ、」
水がないのに溺れるような、そんな感覚に長くは持たないと悟る。琥太郎は目に涙を浮かべながら、震える手で電話をかけていた。
相手は救急隊員のようで、状況やら住所やらを必死で言っていた琥太郎だが、焦りすぎて上手く伝わらず、最後には「いいからっ、早く来てくださいっ!」と叫んでいた。
慌てるな、と言ってやりたかったが、俺は言葉を発せなくて、とてももどかしかった。
「はるかわ、も、もう救急車来るからなっ!」
「か……は、っはぁ…っ、」
「苦しいよな、頑張ろうなっ、ごめんな、ほんと…っ、どうしようっ!ふぇっ、うわぁあ!」
どうすることもできない琥太郎が、ついに泣き出してしまった。
きっと凄く怖いと思う。琥太郎の声と手は震えていて、俺の手を痛いくらいに握っていた。
「やだっ、やだよ、おれぇ…っ!こんな…っはるかわっ、すき…ねえ、すきだよ…っ、」
ああ、俺も好きだよ。
「すきなんだよ…はるかわ、あいしてる、誰よりも、だれよりもあいしてるんだ…、」
俺も、誰よりも愛してる。
「だから、お願い……、しなないで……っ、」
そうだよなぁ。俺もさ、死にたくないんだ、本当に…。
「もうひとりにしないで…っ、おれ、はるかわがいないと…すごく…っ、さびしい……。」
…神様、俺、琥太郎に言わなきゃいけない事があるんだ。だから最後の俺の願い、聞いてよ。
「はるかわがいないと、おれ、だめなんだよぉ…っ!」
「……こ、た……、」
絞り出すように名前を呼ぶと、琥太郎が目を見開いた。キラキラと瞳に浮かぶ涙に、俺の顔が歪んで映る。
「わら、え………、」
「…っ、」
「あ、り…がと……、」
あんなに苦しかったはずの息が、苦しくなくなってきた。なのに、俺の声は全然出なくて、小さくて…ちゃんと、琥太郎に届いただろうか。
「おっ、おれも、ありがとう…っ!」
けど、そんな不安は、涙と鼻水で顔をグシャグシャにした琥太郎が、笑いながら返してくれた言葉で消えて、俺も小さく笑い返した。
「はるかわっ、愛してるよぉ……っ!」
それは、遠のいていく意識の中、最期に聞いた琥太郎の言葉だった。
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