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Memory:38琥太郎 the Sun

春川が、この世を去ってから三年ほど経った。 「新橋くん、明日の資料作成終わったら帰っていいからね。」 「あ、はい、わかりました。」 大学を卒業後、今の会社に就職。まだまだな所はあるけど、それなりに頑張ってやっている。 等しく流れる月日の中、心の中にポッカリと空いた穴はあの時と変わらず、埋まることを知らない。 「…はー、帰るか。」 資料を作り終え、お疲れ様ですと残ってる人たちに一声かけたて会社を後にした。 「よ!お疲れさん!」 「あ、時雨…、待ってたなら連絡くれればよかったのに。」 会社を出てすぐ、聞き慣れた声のする方に目を向けると、スーツ姿の時雨が立っていた。 「や、俺も今来たとこ!このあと暇?」 「まぁ、帰るだけだけど…。」 「じゃ、ちょっと飲み行こうぜ!」 時雨とは、大学卒業後もたまに連絡を取り合っていて、今では飲みに行ったりするくらいには仲良くなった。 春川と付き合ってた時は、話はするものの、連絡先とかは知らなかったから、よくここまで仲を深められたなと少し感心する。 「んでー?最近どうよ。」 「どうって…、この前も聞いたよね。仕事は順調だし、早々ネタになる話題はないよ。」 よく行く居酒屋で乾杯したあと、串カツを頬張りながら時雨が聞いてくる。数日前にも飲んだから、話す話題もそんなにないのに、よく飽きもせず聞いてくるなと思った。 「んや…、恋人的な意味で。」 俺が枝豆を一粒口に入れた時、控えめに時雨が俺を見る。視線を合わせるのが気まずくて、フイッと顔を背けた。 「そんなの、いないよ。」 「…春川?」 「………。」 核心を突かれ、黙り込む。 三年立った。けど、まだ三年だ。 「…ふぅ、春川が心配してた理由がよくわかったわ。」 「…そんなすぐになんて、無理だし…。」 「アハハッ、冗談だって!」 時雨なりに心配してくれているんだろうが、あと数年は無理そうだ。

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