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第6話
結局、甲斐を乗せたままドライブがてら走ってはみたが、ホテルで見た連中以外に尾行している相手はいないようだ。
車を襲われることもなく辰巳の家に到着した三人は、夕食を食べて少し話をした後で甲斐を客間に案内した。
玄関に出迎えた若い衆たちに甲斐は少し驚いたようだが、気にした様子はない。一応、何かあったら電話しろとそれぞれの携帯番号を登録しておいたくらいのものだ。
自室に戻った辰巳とフレデリックは、若い衆に用意させた酒を飲んでいる。
相変わらず隣に座るフレデリックに、辰巳が文句を言う事はなくなった。むしろ、辰巳の方から手招くくらいである。
「しかしまぁ、あの年で誘拐未遂に脅迫たぁな」
「うーん…。匡成の話を聞く限り、お家騒動か何かかな?」
「ああ、御曹司だったか」
甲斐の態度は、年齢にそぐわないほど落ち着いている。それはきっと、周りの大人たちのせいなのだろうと辰巳は思った。
甲斐は、自分が周囲に何を求められているのかを、きっと分かっている。そしてそれを演じてみせているのだろう。
「難儀だなぁ…」
「うん?」
「いや、何でもねぇよ」
ゴロリと畳の上に寝転がった辰巳は、当たり前のようにフレデリックの脚に頭を預ける。
辰巳の、少し硬めの髪を、フレデリックの長い指が弄んだ。
「そう言えば辰巳、匡成から連絡はあったかい?」
「あー…、まだねぇな」
「辰巳の同業者だと思ったんだけどなぁ」
「しかしフレッドよ、お前いつ連中に気付いた?」
最初からだよ。と、そう言ってフレデリックは微笑んだ。
「正確には、甲斐と甲斐のお父さんが到着した時だけどね」
「はぁん?」
「僕たちが到着した時にはもうあの四人はいたけれど、その後で客が入っても目もくれなかった彼らが、甲斐には反応してたから」
「お前よ、よくそんな周り見てんな」
フレデリックの観察眼は、かなり優れていると思う。
というより、辰巳はどちらかと言えば受け身だ。何かがあった時の対処は慣れていても、事が起こる前に先手を打つという事が苦手なのだ。
「何かお前見てるとよ、敵わねぇなって思うわ」
「そんなに僕を褒めても、何も出ないよ? 辰巳」
「別にこれ以上何も要らねぇよ」
フレデリックが背を丸めて辰巳の額にキスを落とす。
付き合い始めてからこちら、こういう小さな触れ合いが二人の間には急激に増えた。といっても、ただ辰巳が止めなくなったというだけの事だけれど。
「腰は、大丈夫かい? 辰巳」
「そういう聞かれ方をすると、色々突っ込みたくなるんだがよ」
「うん? どうして?」
きょとんとした顔で聞いてくるフレデリックに、辰巳は思わず額に手を遣った。
稀に、辰巳はこうして墓穴を掘る。
年寄り扱いされてるように聞こえるとか、傷の具合を聞かれてるのかとか、または情事の後の負担を聞かれているのかとか、色々と思い浮かべてしまうのが辰巳の悪い癖である。
それを話せば、案の定フレデリックはクスクスと笑った。
「本当に辰巳は可愛いね」
「うるせぇよ」
「傷は、大丈夫かい? って、聞いたらよかったのかな。日本語は難しいね」
フレデリックが笑いながらそんな事を言っていると、辰巳の携帯が着信を告げた。
『おう、一意。お前の送ってきた写真の連中だがな、ありゃ岬のモンだ』
「あぁん? 岬だ? 何だよ余計にめんどくせぇな」
そこまで話したところで、辰巳は通話をスピーカーに切り替えた。フレデリックも一緒に話せた方が、説明が省ける。
『名前まで必要か?』
「あー…メモんのめんどくせぇからメールで送ってくれや」
『横着な野郎だな』
「で? 岬ったって上じゃねぇんだろ。誰んとこの若い衆だよ」
『ハハッ、喜べよ…』
「あー、もういいわ。わかったから言うんじゃねぇよ」
匡成の言葉を嫌そうに遮って、辰巳はまた寝転がる。匡成の口振りからして十中八九相手は龍一だ。どうにもこうにも腐れ縁があるらしい。
「匡成。聞いておきたい事があるんだけど」
『おう、フレッドか。何だ?』
「これは、お家騒動か何かなのかい? 誘拐で済む話なのかそうじゃないのかが、僕は知りたい」
『大元の話はそんなもんだが、あの坊やの家は規模がでかいからよ。正直、何が出てくるのかは俺にも想像がつかねぇな』
「じゃあ、その企業の名前だけでも聞かせてもらえないかい?」
いずれ知れる事だと言って、匡成はあっさりと甲斐の家の名を出した。
思わず、辰巳もフレデリックも黙り込む。日本人ではないフレデリックでさえも、その名前は知っていた。
正直なところ、傘下の企業が多すぎて、そこから相手を割り出すことは不可能なほど大規模な企業グループ。
甲斐は正真正銘の御曹司という訳だ。
「なるほど。匡成が想像もつかないって言う理由がわかったよ、ありがとう」
『まあ、言わなくても分かるだろうが、警察沙汰になる前にカタをつけたい。警察に話が行った時点でマスコミが動くからな。そうなりゃ大騒ぎだろうよ』
「そうだね」
フレデリックは考え込むようにして黙った。
『まあ、同業以上の連中が出てきた場合は、俺らは手を引く。相手が割れなくても、だ。現状動いてるのが岬の連中だってんなら、直に割れるだろう。どうせ向こうから食いついてくる。最悪、お前が口割らせろ一意』
「人使い荒すぎなんだよクソ親父ッ」
『ハハッ、その分小遣いは弾んでやるよ』
そう言い残して、匡成の方から通話を切ってしまった。
◇ ◆ ◇
翌朝。フレデリックは辰巳よりも早く起きた。調べておきたい事があったのだ。
辰巳のノートパソコンを拝借したフレデリックは、かれこれ一時間以上画面を覗き込んでいる。
少し、喉が渇いたと廊下へと続く襖をフレデリックが開けると、ちょうど若い衆が甲斐を連れてこちらに来るところだった。
「おはよう、甲斐。きちんと眠れたかい?」
「ああ」
「それなら良かった」
「アイツは?」
アイツ。と、甲斐が言うのは、辰巳の事だろうと分かる。
辰巳がまだ寝ている旨を告げて、フレデリックは甲斐を伴って居間へと移動した。
「おはようございます、フレデリックさんッ」
「ああ、うん。おはよう…。フレッドで、いいよ?」
「いえ、そういう訳には」
かれこれ一か月以上繰り返されている遣り取り。だが、これでもマシになった方なのである。
何故なら、以前彼らはフレデリックの事を”姐さん”と呼んだのだから…。
辰巳が若なら、その連れ合いは姐さん。まあ、間違ってはいない。間違ってはいないのだろうが、フレデリックは男なのである。
最初にそれを聞いた時、フレデリックは思わず卒倒しそうになった。だというのに、その横で辰巳は爆笑していたのである。
毎回挨拶をされる度にそれを思い出してしまうのが、このところのフレデリックの悩みだ。
「辰巳はまだ寝てるからいいけど、甲斐に朝食を用意してもらってもいいかな。僕は、後で辰巳と食べる」
「はい。すぐお持ちしますッ」
他人をこうして使うという事に、フレデリックは未だ慣れてはいない。だが、慣れていないからとフレデリックが動くと、彼ら若い衆が怒られるのである。
ヤクザというのは、よくわからない世界だ。
フレデリックは台所へと消えていく若い衆を見送って、視線を甲斐に移す。話している間ずっと自分を見上げている甲斐に、フレデリックは気付いていた。
「どうかしたのかい?」
「お前は、船乗りだと昨日言っていなかったか?」
「そうだよ。今は、訳あって長期休暇中だけどね」
取り敢えず座ろうか、と、甲斐に座席を示す。
「それなのにヤクザを使うのか?」
「ああ…、うーん…、それは、僕が辰巳と一緒にいるからとしか言えないんだけどね」
「では、どうしてアイツと一緒に居るんだ?」
どうやら妙な興味を引いてしまったらしい。無反応なのも困るが、こうして質問攻めにされるのも、困ったものである。
「どうして…か。辰巳は、僕の大切な人だからだよ」
「大切な人? 友人ではなく?」
「まあ、甲斐にもそういう人が出来たら、分かるんじゃないかな。月並みな言い方しか出来ないけれど」
そう言って、フレデリックは朗らかに笑った。
ちょうど頼んでいた朝食が運ばれて、フレデリックは甲斐が食べ終わるまで新聞などを読むことにする。
フレデリックが甲斐を伴って戻ると、ちょうど辰巳も起きたところだったようだ。
そして、襖を開けた瞬間に、事故は起きた。
フレデリックが辰巳の部屋の襖を開けるのと、辰巳が奥座敷の襖を開けるのが、同時だったのである。
もちろん、寝る時の辰巳は、素っ裸だ。その上、そのまま風呂場まで行くのも、平気だ。
奥座敷から出てくるのに服など着ている筈はなかった。
「あ?」
反射的に、フレデリックが隣に立つ甲斐の目の前に手をかざす。
「辰巳、服」
「あぁん? 男同士で隠す必要もねぇだろ」
「甲斐はまだ未成年だよ」
「はぁん? あんだよめんどくせぇな」
ガシガシと頭を掻きながら奥座敷へと辰巳が戻ったのを確認して、フレデリックは恐る恐る視線を下げる。
「見た…? よね…」
「まあ、見えたな」
「ははっ、なんか、ごめんね?」
「どうしてお前が謝る?」
「なんとなく…かな…」
甲斐の様子からしてあまり気にしてはいなさそうだが、それはそれで問題なのではないかと思ってしまう。
すぐに戻ってきた辰巳は、ただ下着を穿いただけの姿だった。
フレデリックは溜め息をひとつ零すと、辰巳のシャツを取りに奥座敷へと入る。
一瞬、浴衣の方がいいかとも思ったが、シャツでいいやと妥協してしまう辺りフレデリックもあまり人の事を言えた義理ではない。
「せめてシャツくらい羽織ろうか」
そう言ってフレデリックは辰巳の肩にシャツを掛けると、置きっぱなしにしていたPCの前に戻る。
まあ、戻ると言っても、辰巳が座る座椅子のすぐ真横がフレデリックの定位置なのだが。
並んで座る二人を、立ったままの甲斐が見下ろしていた。
「ああ、ごめんね甲斐。適当に座ってくれていいよ?」
「フレッド、飯は?」
「僕はまだだよ。甲斐には、先に用意してもらった」
辰巳が、廊下に声をかけると、すぐさま返事が聞こえてくる。
「飯。部屋で食うから二人分持って来い」
「只今お持ちします」
聞き慣れた遣り取りを気にする事もなく、再び調べものに戻るフレデリックの横で、辰巳が煙草に火を点ける。
そんな二人の様子を、甲斐はどこか面白そうに見ていた。
「夫婦……」
ぽつりと、甲斐が呟く。
「ああ?」
「いや、お前たちは何故か夫婦のように見える」
「はぁん? まあ、そうだろうな」
それがどうしたとでも言うような辰巳の態度に、甲斐がフレデリックを見る。
「なるほど。お前が言っていた意味がわかった」
「そう。なら良かった」
フレデリックがパソコンの画面から視線を上げて甲斐に微笑むと、その隣で辰巳は怪訝な顔をしていた。
「夫婦だの意味がわかっただの、何の話だよそりゃ」
「何でもないよ。辰巳には、内緒の話」
フレデリックはそう言ってクスクスと笑った。
昼前に、辰巳の携帯に匡成から電話が入った。
だいたいの目星がついたという報告に、こちらから接触してはどうかとフレデリックが提案して、それを匡成が受け入れる。
甲斐についての一件は、ほとんどフレデリックが中心に匡成と話をしていて、辰巳はそれを面白そうに眺めているだけでよかった。
さして時間をおかず、準備が整ったとの連絡が入る。匡成だけでなく、どうやら甲斐の父親も相当手際がいい事が知れた。
「それじゃ、後は辰巳に任せるよ」
「あー…、そりゃあ構わねぇけどよ、何を話しゃいいんだよ?」
「そうだなぁ、龍一が困りそうな事かな」
「困りそうな事、ねぇ…」
ガシガシと頭を掻いて辰巳は携帯を取り上げると、気負う様子もなく辰巳はボタンを押して携帯を耳に宛てた。
辰巳の番号は携帯を買換えた時に新しく取得したもので、まだ龍一も知らないのだろう。なかなか繋がる気配がない。
それでもしつこく鳴らし続けていると、やがて訝るような龍一の声が聞こえてきた。
『誰だ…』
「よう龍一、出るのが遅ぇんだよ。その後右腕の調子はどうだ」
『テメェ、一意ッ』
「ハハッ、番号変わったんで教えておいてやろうと思ってよ。優しいだろ?」
『ふざけんなテメェ、死にぞこないが何の用だ』
龍一の言葉に、辰巳はおやと首を傾げる。てっきり甲斐が辰巳の元に居る事など調べられていると思っていただけに、拍子抜けだ。
「惚けんなよ龍一、お前んトコの若ぇのが付け狙ってるガキの話だよ」
『ああ!? 知らねぇな』
ふむ。と、辰巳はフレデリックを見た。
龍一の声は聞こえていないため、フレデリックが怪訝そうな顔をする。
何か書くものを寄越せと身振りで伝えて、辰巳は束の間黙り込んだ。
龍一の口振りは、本当に何も知らないような気がする。フレデリックが戻ったのを見計らって、辰巳は再び口を開いた。
「おいおい、てめぇんトコの若いモンが何してんのかも知らねぇたぁ、龍一様も落ちたもんだなぁ」
辰巳が言えば、フレデリックが状況を把握してさらさらとペンを走らせる。日本語を話せるだけでなく、筆記もできるという事に感心している余裕はなかった。
『ウチの若いのが何だってんだ。はっきり言いやがれ』
「あぁん? それが人にモノ頼む態度か龍一クンよぉ」
低められた龍一の声に、辰巳は適当に返事をしてフレデリックの手元を見た。
そこには『情報が伝われば問題ない』という文字と共に、『リュウイチなら振り回してくれるんじゃないかな?』と書かれていて、辰巳は苦笑を漏らす。
フレデリックの考えは的を射ている。龍一が部下を勝手に使われていると知ったなら、黙ってはいないだろう。たった一度しか会っていないはずのフレデリックが、そこまで龍一の性格を見抜いているという事に驚きを通り越して呆れ果てる。
――こりゃあ、藪蛇だったな。まあ、巻き込みついでに踊ってもらうか…。
「おい龍一。てめぇんトコに郷田って若ぇのがいんだろう」
『……それがどうした』
「そいつに伝えろや。お前らが狙ってるガキは、辰巳の本宅から一歩も出さねえってな」
『テメェ、いったい何をやってやがる』
「お前んトコの若ぇのが、辰巳に喧嘩吹っかけてんだよ。なあ龍一、てめぇが知らねぇってんなら、他にそんな馬鹿な真似出来んのはそう多くねぇだろう?」
そう言って、辰巳は龍一の返事を待つことなく通話を切った。
テーブルの上に携帯を投げ出して、どさりと躰を横たえた辰巳は、いつものようにフレデリックの脚に頭を乗せる。
その様子を甲斐は、意外そうな顔で眺めていた。
「辰巳? 僕は今調べものをしてるんだけどな」
「あん? すりゃあいいだろうが」
「まったく…。肘、当たっても知らないからね」
「分かってんなら当てんじゃねぇよ」
そんな遣り取りを自然と交わす辰巳とフレデリックを、甲斐は交互に見た。まあ、見たと言っても辰巳に関して言えば、テーブルの死角で顔までは見えなかったけれど。
やがて健やかな寝息が聞こえて、辰巳が寝てしまった事が知れた。
「意外だな」
「うん? 何が、かな」
「その男が」
「そうかな。辰巳は、とても素直だよ?」
膝の上で寝息を立てる辰巳の顔を見下ろして、フレデリックが笑う。その顔は、とても穏やかだ。
「そのようだ」
パタンと、ノートパソコンを閉じたその指で、フレデリックは辰巳の髪を撫でた。
「甲斐。きっといつかキミも、辰巳がどんな男かを知る日が来るよ」
「楽しみにしておこう」
「そうだね。それに、キミがこれからどんな佳い男に育っていくのかも…ね。その時になったら、口説かせてもらおうかな」
そう言ってフレデリックが笑っていると、辰巳の携帯がテーブルの上で鳴動した。その音に、辰巳が目を覚ます。
「ああ?」
不機嫌そうに起き上がる辰巳にフレデリックは携帯を取ってやると、廊下に出たところで甲斐を振り返った。こいこいと手招いて、二人はどこかへ行ってしまう。
気にした様子もなく辰巳は携帯を開いた。
『おう、一意か』
「どうなった」
『割れたよ。よくやった』
匡成は、それだけを告げた。
相手が誰であったかなどの話は一切ない。だが、辰巳にとってはそれで良かったし、気になる事でもない。
『坊やの迎えが直そっちに着く。俺も一旦戻るから、それまでは頼んだぞ』
どうやら、これで甲斐の件は一件落着という事らしい。思ったよりも運動する機会がなくて、辰巳としては正直物足りないが。
フレデリックにも伝えようと辰巳が立ち上がると、ちょうど襖が開いて二人が戻ってくる。
「おう、どうやら終いになったらしい」
「そう。それは何よりだね」
定位置に座り直した辰巳に、フレデリックと甲斐も元いた場所に腰を下ろす。辰巳は甲斐に迎えが来ることを告げて、煙草に火を点けた。
程なくして、匡成と甲斐の迎えの車が到着した。俄かに庭が騒がしくなる。甲斐を迎えに来た車に、甲斐の父親の姿はない。運転手が丁寧に頭を下げて、車に乗り込んだ。
甲斐を乗せた車が門を出ると、匡成もすぐにどこかへ出かけてしまった。どうやら見届けに来ただけのようだ。
「やっと静かになったな」
「ふふっ、本当は物足りないんでしょ、辰巳」
「あぁん?」
くだらない遣り取りを交わしながら、フレデリックと共に部屋へと戻る。
長引くかと思われた一件が思ったよりも早く片付いてしまい、辰巳としては拍子抜けするくらいだが、それで良かったとも思う。
いくら大人びた態度をしていても、甲斐は十六歳だ。いつまでも面倒事に巻き込まれていたのでは、可哀相だ。
「でも、安心したって、顔に書いてあるよ辰巳?」
「うるせぇよ」
「本当に辰巳は可愛いねぇ」
そう言って唇を寄せるフレデリックを、辰巳が拒む事はなかった。
相変わらず表情は、苦々しかったけれど。
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