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第270話
お兄さんの秘密 25
悔しくて震える手を杏果がぐっと握りしめてくる。
「 とにかく安藤君、家に戻ろうよ。
みんなにも伝えないと 」
と、俺を見上げてくる杏果の眼差しはとても強くて、頼りない気持ちに寄り添ってくれる恋人の姿に思わず涙が出そうになった。
月さえ隠れたシンとした夜明け前の街の通りを歩いて家に帰り着いた。
暖簾を奥へ下げた店には煌々と明かりが点いている。
扉を開ければオヤジと姉貴がこちらを振り向いた。
お互い無言でしばらく見つめ合う。
「 お帰り。お腹空いたでしょう。お握りあるから、今お茶入れる 」
と姉貴が厨房に入っていった。
「 洸紀も腹すかせてるだろうな。明けたら署に差し入れしようか、様子も見てきたいし 」
オヤジは出が出だけに流石に肝が座っている。
「 杏果ちゃんもありがとな!
疲れたか?ここに座りな 」
椅子を引くと杏果を手招きする。
その時突然杏果か泣きだした。
「 ごめんなさい、ごめんなさい……僕洸紀さんが車に乗るのを見てたのに、何にもしないで!ごめん、ごめんなさい 」
驚いた俺が思わず杏果の腕を掴むが、そのままその場に蹲ってしまった。
オヤジが蹲った杏果に近づくと、
「 そんなことない!大丈夫だから!
杏果ちゃんが謝ることなんて何もない。車のナンバー助かったんだから、良くやってくれたよ。泣かないで 」
お握りとお茶を乗せたお盆を持って出てきた姉貴も俺もただただ突っ立ってそんな二人を見ているしかなかった。
オヤジは杏果の肩を抱いて立ち上がらせると俺にお盆を指差す。
「 上に持って行って杏果ちゃんも休ませてやれよ 」
グズグズ泣いてる杏果とお盆を持って俺は店から家に上がった。
家の中は真っ暗でシンとしていて、昨日とは全く違うんだと訴えてるようだ。
そう言えばおふくろ旅行に行ってたな、今頃慌てて帰ってきてるところだろうかと考えながら部屋の電気を次々と付けた。なんとなく明るくしていれば兄貴が早く帰ってこれるような気がしたから。
ダメだな、俺までセンチになってる……
そうだ!団さんに預かっていたものを見て見なきゃ。
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唐突にオヤジさんの出自の話が出ました。彼は彫り師の家の出です。
その仕事を敬遠し今の職に就いています。( 曲者だらけのラーメン屋さんに記載 済 )
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