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第280話
お兄さんの秘密 35
「 嶺さん 」
驚いて和也さんも背後を振り向く。
よお!と軽く手をあげる姿はいかにも仕立ての良いサマースーツ姿。青みがかったライトグレーのチェック柄で嫌味なほど爽やかで洗練されて見える。ノーネクタイに開けたワイシャツから覗くチョーカーは業界人らしくいやらしさを醸し出す。
杏果まで、
「 え?カッコいい 」
なんて呟くから俺の印象は益々最悪になった。その上から下の革靴までうん十万円で纏められた男の横には流星。
デニムのクロップドに薄いブルーのサマーニットざっくり着て、なんて不釣り合いなコンビだ。
「 おい、離れろよ 」
早速俺のこと避けてんだろ〜と、背後から覆いかぶさった流星から杏果を引き剥がすと、
「 あいも変わらずアツアツだなぁ 」
と嶺さんに呆れられた。
「 どうしたんですか?嶺さんは 」
「 お前たちこそ、誰かのお迎えか?
これなんの騒ぎか知ってる?」
「 嶺さんは誰の?」
「 おう、質問には質問で返す、いい根性だな和也 」
ヘラヘラと笑いながら、
「 俺はうちの事務所の子のお迎え。というか引き取り 」
「 昨夜のビルにいたの?」
「 え?君たち知ってるの?あのビル 」
ずっと質問質問の応酬でも、話は繋がってくる。
「 うちの子未成年だからさ、引き取りに来ないと返してもらえないでしょ 」
「 未成年!」
3人ではもってしまった。あれか、あの子どもがいたって団さんが言ってたのは嶺さんのところの子だった?
「 幾つですか?その子 」
と聞くと、
「 えーと、19、19だからさ、あと少しだったんだけどな 」
何があと少しかはわからないけど中学生くらいの子ではないらしい。
「 嶺さんの事務所から仕事で?」
「 いや、そうじゃない……」
言葉を濁す嶺さん。
その時、着信があったのはオヤジからだった。
「 玄関に佐賀さんが出てくれるから付いて行って 」
「 佐賀さんに?」
「 そう 」
短く会話をすると通話は切れた。
署の混み合ってる出入り口を方を見ると佐賀さんが丁度顔を覗かせていた。
「 佐賀さん!」
と俺は大声で呼びかけながら記者やカメラマンを押し分けて寄っていくと、佐賀さんがこちらに気がついた。
「 おう、こっちだ。でも入るのは王国だけにしてくれ 」
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