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第285話
お兄さんの秘密 40
「 少しは自分のことを考えるようになったか?」
と団さんに言われ俺が頷く。
この何日かの同居生活ですっかり団さんには馴染んでしまった。
「 オーナーには2ヶ月で次のやつを紹介するからと言ってある。めぼしいのが見つかったから洸紀、お前はいつでも辞められるんだ 」
「 いく先がないよ 」
「 家に帰れ、お前を見つけた時からオヤジさんには伝えてある。無理に帰さない代わりに俺の所で面倒見ると伝えたら、お前さ、俺の昼飯は小次郎で毎日タダだよ 」
苦笑しながら話す団さん。
「 迷惑かけてごめん、でも 」
「 でもじゃない、とにかく一回無事だって挨拶してこい 」
「 俺出るときに 」
「 聞いたよ、金持ち出したんだろ?」
恥ずかしくて下を向いたオレの頭をガシガシかき回しながら、
「 だったら余計にきちんと謝れ。
悪いことをしたってことはわかってるなら謝れ。
その先はオヤジさんたちの考えることだろ?お前が勝手に悪いから帰れないなんて、罪から逃げてるだけだ。きちんと自分のことは自分でけじめをつけろ 」
その団さんの言葉。
俺は三日考えた。
そして次の週、店主に頼んで休みをもらい夜、店の終わる時間に家へ向かった。
何年振りだろう、あの暖簾見るの。少し早く着いた俺は暖簾が未だ仕舞われていない店をぼんやりと眺める。
二年半くらい?その前にも家は出たり入ったりしてたから。
いい加減だった自分のことをどう思ってるんだろう。
京子も王国も俺のことなんて忘れてるかもしれない。
惨めだな、覚えていてもらいたがる自分が情けなくて、銀行から出してきた100万円の袋を握りしめる。
自動ドアが空いて暖簾を下げに出てきたのは王国だった。
でっかくなりやがって、俺より大きいじゃないか、あいつは父親似だから俺とは顔の感じも違うけど昔よく連れて歩いた弟の面影はしっかりと残ってる。
目に溢れてきたものを手の甲で拭っていると、
「 兄貴 」
という声が間近でした。
声変わりして男の声になった弟の声。
「 店終わったから入れよ、みんな待ってる 」
下を向いたままの俺の腕を取ると強引に店の前まで連れて行く。
「 馬鹿力 」
思わず出た憎まれ口に、
「 もう喧嘩しても負けないから 」
と言いながら俺を店の中に放り込んだ。
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