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第287話

お兄さんの秘密 42 (杏果 ) 署の前の人だかりは黒塗りの車が出ていくたびにたかれるフラッシュ。その度に怒声が上がる。 「 人ってこんなもんなんだ 」 ふっと和也さんが呟く言葉が気持ちに痛いほど入ってくる。 人に揉まれながら待っていると団さんが側に寄ってきた。 「 もうそろそろ出られるんじゃないかと思うけどな 」 「 お兄さん?」 「 ああ、身元引受人が入って3時間ほど経つからな、弁護士も一緒だから大丈夫だろう 」 身元引受人、弁護士、遠い存在のような言葉が並び背筋がスッと冷えた。 僕らの毎日、のんびりとある時ははめを少し外しながら送る毎日にも容易にこんな事態は入ってくるのかな? 「 あ、オヤジさんだよ 」 正面玄関から少し離れた出入り口に佐賀さんとオヤジさんの姿が見えた。 「 ゆっくり回りの奴らを刺激しないよう帰ろう。今接触するとはしっこい奴には餌を与えちまうから 」 和也さんが頷くと軽く僕の背に手を当て駅の方に向かう。 団さんは、後から行くから、 と目で軽く挨拶をして又喧騒の渦の中に入っていった。 駅からトボトボと二人で宮益坂を上がる頃にはすっかり太陽は真上に昇っていた。 「 疲れたんじゃない?杏果大丈夫?」 「 疲れたけどなんか妙に目が冴えて、興奮してるのかな 」 「 あーステージの最後みたいな感じ?」 笑いながら僕の気分をほぐしてくれる。和也さんの方がお兄さんのことは気に病んでいるはずなのにね。 暖簾がかかっているお店の前まで来ると、 「 前のカフェで待ってような、ここは悪目立ちするから 」 と二人でカフェに入った。 頼んだ冷たいカフェオレにたっぷりとガムシロを入れた。 「 俺も今日は甘くするわ 」 と和也さんもいつもは入れない砂糖を入れコーヒーをかき混ぜる。その手が少し震えているのを僕は見ないふりをした。 無言でお互いの飲み物を口にする。目はしっかりと小次郎の店の前を見ている。そんな時間は一台のタクシーがお店の前に着いたことで終わりを告げた。 「 帰ってきた 」 「 オヤジさんとオフクロさんと、コウ……」 あれ?王国は? と思ったら坂を走って上がって来る王国が見えた。 タクシーが去ると、店の前には三人の姿。横から上がるのはもちろんお店じゃなくて自宅への階段。

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