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第289話
お兄さんの秘密 44 (杏果 )
「 俺は自分のことは喋れるけどコウのことは言えない。だいたいはわかるけどその時のコウの気持ちも本人じゃないとわからない。増して肉親の前ではなおさらだよ 」
「 俺にはわからない。兄貴がなんで脅かされてたんですか?売りをやってたのはあなただ。兄貴じゃなかったはずなのに 」
こんな怖い顔をした王国は初めて見た。どうしたらいい?
和也さんはその場で頭を深く下げた。
「 本当にすまない。彼は、コウは、巻き添えなんだ。俺の巻き添えにされただけだ 」
王国の手が小刻みに震えているのがわかる。
「 巻き添え……巻き添えでこんなことに 」
重い沈黙が続く。
「 おい、どうした?がん首並べて 」
そう言いながら和也さんの隣にコーヒーを持って腰を下ろしたのは団さんだった。
和也さんも王国もなにも答えようとしないので仕方なく僕が口を開く。
「 お疲れ様です 」
「 なんだ?この二人。葬式に参列してるみたいな顔をして 」
王国がきつい目で和也さんを睨みつけているのを分かってるはずなのにのんびりと団さんが続ける。
「 王国、そういえば前にお前に預けたもの覚えてるか?」
はっとなった王国が団さんの方に目を移すと、あれ?という顔をしながら団さんが続ける。
「 あの預けたものを返して貰いたいんだが……もしかしてお前中身を見た?」
ギクリとした団さんの顔に頷く王国。
「 そうか……こんなことが起きるとは俺でも思わなかった。お前に預けるなんて酷な事をしてすまなかったな 」
「 預かったもの、団さんの了解取らずに勝手に見たんだから、そんな……」
「 3本あっただろう。全部見たのか?」
「 3本、そう言えば3本目はまだ……」
「 3本目が多分1番やばいやつだ。まぁ見ても肝心なところは飛ぶサイトの先のURLしか記してないし、飛んでもパスワードでロックがかかってる。そのパスがわからないとダウンロードで見れないって仕組みになってる 」
やばいのって、何?
「 今回どの辺りまで書類送検されるかわからんが、確実にその前にすっぱ抜ける内容なのがその3本目なんだよ。でも困ったことに内容が見れないことには想像では記事は書けんし。パスワードさえ何かわかれば……」
「 今度は裁判に?」
和也さんが硬い声で尋ねた事に僕の足は震えた。
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