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第301話

お兄さんの秘密 56 (杏果 ) 三人のアイマスクをした体格の良いウェイターがそれぞれの目の前に一口で食べられる小さなつきだしを置き終わると、 テーブルを挟んで座るお互いの目の高さにグラスを上げて口をつける。瞬間、微かな果実と濃厚なアロマが香る。 プチプチと細かな泡で舌触りも少し弾むようで、 「 美味しい!」 と思わず声をあげた僕に今度は山田さんと田中さんの二人の目が集まる。 横から王国の指が僕の乳首に触れながら甘い声で呟いた。 「 テーブルだから油断してた……バンド◯イド貼っときゃ良かった 」 え?なんで?乳首に?僕怪我はしてないよ! 「 ツマミだったら俺これかじりたいかも 」 耳元に囁く王国の椅子に目をやると、ダークグリーンのナプキンが雄々しく盛り上がっている。 もう、みんなの前で見えないとはいえ……僕の方が恥ずかしくなる。 下を向いて赤くなった頰を抑えると、 ゴクリと誰かの唾を飲む大きな音が聞こえた。 「 さあ、アミューズの次はアントレ 」 サンドラさんの声で運ばれてきたのは、 「 タラバガニとカリフラワーのキッシュでございます 」 低いズンと来るウエイターの声と、 「 これにはアルザスのやや辛口のワイン、柑橘系の自然な風味が素朴さを感じさせるこのワインでキッシュを楽しんで 」 華やかでボーイソプラノのサンドラさんの声が耳に心地よい。 この部屋は自然に風邪もサヤサヤと流れるように施してあるのか、心地よい屋外のデッキで食事を楽しんでいるような気分にもなる。 流石に照さんは細かくいろいろな会話をサンドラさんと交わしている。 王国は、と言えば一応カトラリーを上手く使って食べてはいるけど…… その視線は目の前の山田さんと田中さんを刺している。 なんでそんなに二人が気になるの? シャンパンと白ワインと、ほーっと気持ちがきてくるとなんだか身体があったかくなってきた。 「 サンドラさん、食事の途中だけどローブ脱いでもいい?」 と尋ねると、もちろん!と嬉しそうな顔で了承される……なんだろう。 「 ダメだよ 」 王国が止めるのも間に合わず僕は簡単に脱げたローブを預かりにきた彼女彼に渡した。 一瞬静まり返る部屋。 口を手で覆う山田さん、その横でアイマスクの位置を直す田中さん。

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