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第304話

お兄さんの秘密 59 (杏果 ) 大河シェフはみんながスープに舌を巻いてるのをにこやかに見ている。 「 次のメインディッシュは手長海老です。 今日は更にグレードアップされた品として、手長海老とスズキのグリエ、そして、キャビアと手長海老の旨みでソースを仕立て、ホワイトアスパラガスを添えてあります 」 ゴクリ、とみんなの喉がなる。 どうぞごゆっくり、とシェフが下がるとサンドラさんが次のワインを注ぎながら、 「 今日は満席で、どの部屋からも料理が運ばれるたびに歓声が上がるのが素敵! この料理に合わせたワインはスペインのもの。僅かについた黄金の色が美しく、花と果実の香りを楽しみながら海に近い産地のワインはわずかな塩味を含んだきりっとした辛口が手長海老の海老の甘みを引き出すと思う 」 サンドラさんは流暢に言葉をつなぐ。 濃いブルーグレーのリネンに覆われた椅子に晒した肌を乗せ、そのリネンの柔らかさにすっかり尻たぶも満足している。身体全体で触れる入ってくる感触を楽しむ。 心地よい香りの上に、料理の欲を擽る匂いが重なる。 美しく飾られた皿の視覚の喜びがそのまま舌にも伝わっていく。 芳醇な酒が喉に伝わればそれは肌にも伝染する。 何も纏わぬ身体全てでその料理を楽しむ。 「 さぁ、最後のディッシュはこちら 」 「 蝦夷鹿のロースト 無花果のソースそして フォアグラ添え 」 「 ワインはフランスのロワールのもの。軽いミディアムライトボディなので、無花果の控えめなソースと蝦夷鹿肉の滋味深い味わいとかすかに残る野性味を味わってもらうのにピッタリですわよ 」 声にならない会話をカトラリーで交わす。食事をする音のみが賑やかに楽しい風を運んでくる。 食事の始まりには心細い様な存在だったテーブルを囲む人たちの裸の身体がやけに大きく華やかに感じた。 「 杏果、ちょっと手伝って 」 メインのお皿が綺麗になる頃サンドラさんから声がかかる。 お皿の変わるたびに注がれたワインで僕の脚は少し覚束ない。王国の腕に捕まって椅子から立ち上がると、サンドラさんの持つ銀色のトレイの上には宝石のような石がついたクリップのセットが5セット並べられていた。

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