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第312話
お兄さんの秘密 67 (杏果 )
「 杏果いるんだ 」
「 え?そう?今日バイトだと思うけど 」
扉の外で会話する声。
静かにブリーフを履いた僕は外の会話に聞き耳を立てた。
あの声は……流星じゃん!やだ
「 おーい杏果、いるんだろう 」
ノックされたドア。居留守使おうかと思ってた時に又電話の着信音が鳴った。
王国からの着信に慌てて電話にでる。
「 杏果!やばい、団さんが交通事故で 」
「 え!」
「 今、いま店の前の通りでバイクに跳ねられた、救急車を 」
電話越しにピーポーピーポーというサイレンの音が聞こえる。
「 杏果いるなら、 」
ドアを開けて流星が顔を覗かせる。
「 流星、バイク?」
「 な、なんだよ……そうだけど 」
「 送って、僕を渋谷まで送って 」
「 へ? 」
怯む流星を引っ張って外に飛び出ると、2つ引っ掛けてあったメットを被りバイクに流星と跨る。
「 渋谷ってどこ?」
流星もぼくのただならない雰囲気に押されて文句も言わない。
「 宮益坂!安藤君のラーメン屋 」
「 あ、あそこか ちぇっ!」
と言いながら流星も慌ただしくバイクのエンジンをかける。
重いエンジン音の後、高い回転の音がしてバイクは飛び出していった。
バイクとはいえ信号待ちはさせられる。その時間がもどかしい。
でも、
この先何を見るのか恐怖で、冷たくなった指先で流星にぎゅっとしがみつく。エンジンの音と寄せた身体の熱、酷いことが起こらないようにと、ただただ祈った。
井の頭通りから環八に出て、246で渋谷へ。
道は混雑していたけど20分で店の近くまで来た。
止められる場所を探して少し手前にバイクを止める。
通りには救急車はもういない。病院に運ばれたのか?
少し先に警察車両が何台か止まっている。先日見た赤色灯が今日は昼間回っている。同じ焦燥感が蘇ってきた。
「 おい、あそこか?事故?」
こもった声が聞こえる。
メットを脱いだ流星が僕のメットに手をかけて脱ぐように促すと、
汗をかいた頭が解放されて急に街の喧騒が耳に入ってきた。
警察官が交通整理をしている。何か倒れてる?
流星の言葉が呆然となった僕の耳に流れてくる。
落ち着かなきゃ、落ち着くんだ……
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