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第313話

お兄さんの秘密 68 (杏果 ) 「 あー、バイク倒れてるよ! でっけぇ。◯ン◯の1800クラスのやつだよ、300キロ以上あるから倒れたら動かせないな 」 バイクの向こうには警官が集まっている。バイクからそこまでは黒い水のようなものの跡、血だと思った瞬間僕は苦しくなった。 「 杏果!大丈夫か?」 流星が僕の身体を支えて歩道わきの壁にもたれかけさせる。 「 ちょっと待ってろ、聞いてくるから 」 勘の良い流星は僕が急いだ理由がこの事故だとわかったみたいだ。目眩を止めるために目を瞑る。落ち着かなきゃ。 少し落ち着いたら流星が戻ってきた。 「 男の人があのバイクに跳ねられたって、血はそんなに流れてなかったけど意識はなかったらしい。救急車で運ばれるとき若い男二人同乗してったみたいだ。二人とも小次郎のムスコだったって 」 そうか、王国ともう一人は恍紀さんかな。向かった病院も小次郎に行けばわかるかもしれないな。 「 流星、あの、ありがとう。急にごめんね 」 流星はアン⁈という風に眉を上げる。 「 お前さ、ここまできて俺を仲間外れにする気?なにが起きてる?この間も警察に来てただろう 」 あ、と言ったまま僕は言葉が繋げない。 「 まぁとにかく王国の店に行こう。そこで病院が分かるんだろ?」 強引な流星がここで引くわけもなく仕方なしに流星と小次郎の暖簾をくぐった。実際は営業中の時間なのに暖簾は下げられており、店の中には数人のお客さんが残っていた。 厨房の中のコウさんと目が合うとコウさんが店の奥のテーブル席を指差す。 そこにはテーブルを前にしてうな垂れたお父さんがいた。 僕が近づくと、 「 杏果ちゃんか……今回、俺は本当にまいったよ 」 哀しそうに話すお父さんの手、膝の上で握り締められたそれを僕は両手で握りしめる。 なんて言葉をかけたらいいんだろう。おそらく団さんの事故が恍紀さん絡みだと思っていることはヒシヒシと伝わってくる。 「 ありがとう、杏果ちゃん。今日はもうお店閉めるからバイトはなしな 」 その時、お客さんが声を上げた。 「 おい、あの議員が刺されたって! 今速報で流れてる 」 その人がスマフォをかざすと誰かがお店のテレビをつける。 目に飛び込んだのは、 "相澤元議員、家を出た所で暴漢に刺される" というテロップ。

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