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第315話

お兄さんの秘密 70 (杏果 ) 王国がスマフォを立ち上げた途端、表示されるトップニュースはその事が事実と伝えていた。 「 どこ刺されたんだ? 搬送されたのはどこの病院なんだ?都内ってだけじゃわからない 」 暫く画面を睨みつけていた王国が 「 ちょっと電話してくるから、このことまだ兄貴には内緒にして 」 と言ってセンターから出て行った。 「 杏果、ベッドの方に行ってなよ、俺はここで王国が帰ってくるのを待ってるし 」 頷いて僕は団さんの所に戻るとベッドのカーテンを開ける。 恍紀さんは初めて僕が来たことに気づいたようだった。 「 あ、杏果ちゃん、なんで?」 「 うん、心配だから 」 「 そっか、そうだよね 」 そのまま団さんの包帯で巻かれた手をさする恍紀さんは調理服のままなのに、どこかおぼろげでこのままどっかに居なくなってしまいそうだった。 カーテンがシャッと開けられる。ハッと顔を上げると、看護師さんが2人、検査するから動かします とベッドごと奥の棟にベッドを動かして行く。 その後バインダーを抱えた人が、 「 団さんの身内の方ですか?」 と聞くので、 いいえ、と答えると、身内の方が見えたら呼んでくださいね、と慣れた口調で告げ忙しそうに去って行った。 団さんが居なくなりその場に居るわけにもいかないので僕らは流星の居るベンチまで行く。 ひっきりなしにやってくる救急車。サイレンの音と、人の出入りする騒めきと、慌ただしくなる中でベンチの場所も関係者らしい人が溢れかえって来た。 相澤さんもどこかの救急に運ばれて居るんだな、その事を思い横の恍紀さんを見ると、空間の一点を見つめたまま視線が動かない。色をなくした唇が震え、 「 京司さん 」 と小さく呟く声が聞こえた。 暫くして王国と男性が扉から入ってくる。 「 団さんのお兄さん 」 王国がそう僕らに告げると救急のナースセンターに案内して行った。 王国が戻ってくる。険しい顔をして恍紀さんの肩をきつく抱くと耳元でなにかをはっきりと告げている。 蒼ざめて小刻みに揺れる恍紀さんの身体。顰められた眦からは涙が一筋糸を引く。 なんでこの人ばかりこんなに苦しまなきゃなんないんだろう 僕は彼の不幸を本気で呪った。

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