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第316話

お兄さんの秘密 71(王国 ) 俺が救命救急センターを出て電話したのは刑事の佐賀さんだった。 忙しいだろうなと思っていたけど電話は直ぐに通話に変わった。 「 もしもし、王国か?」 という声に俺は迷わず相澤京司の事を聞く。 「 今どこにいる 」 「 団さんの運ばれた病院 」 「 え?団さんって、何かあったのか?」 「 え?佐賀さん知らないの?団さん、バイクに跳ねられたんだよ、俺のうちの前で 」 しばらく沈黙した後、 「 事故か……」 と呟いた佐賀さんに、団さんの容態を話すと佐賀さんも電話の向こうでホッとしたようにため息をついたのが聞こえる。 そして、俺はもう一度相澤の事を聞いた。 「 ちょっと待ってろ場所変えるから 」 そのまま待つと、少し声が聞きにくい騒がしい場所に移ったようだった。 「 それで、何を知りたいんだ 」 「 無事なの?生きてるの?」 「 ああ、まだ死んじゃいない……すぐに運ばれたからな、そばにいたやつの止血も効いたらしいから 」 「 それでどこを刺されたの?」 沈黙が流れる。 「 病院はどこ? 兄貴にはまだ教えてないんだ 」 「 そうか、恍紀もそこに一緒なのか 」 「 うん、もう責任感じちゃって兄貴の方がどうにかなりそうだよ……見てらんない 」 気持ちを吐露した途端俺の方が泣き声になる。 「 相澤は相澤元議員は、 国立の救命救急センターに送られてる。自宅の近くだってのが幸いだったな、 刺されたのは、 喉付近だという事だけ分かってる。あとは重篤な状態だという事だ。これだけしか言えない 」 「 ありがとう 」 俺は通話を終えた。 脚が震えてる、喉付近だって? なんて事だろう……恍紀になんて伝えよう。 俺は違う名前をもう一回タップした。出た親父に直ぐに団さんの容態を説明する。少しホッとしたように声が緩んだが、直ぐに恍紀をよろしく頼むという親父の押し殺した声。 それに頷き通話を切った俺は、 両方の頰を一発叩いて、震えを止めると救命救急センターの方にもう一度向かった。

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