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第317話
お兄さんの秘密 72(王国 )
病院入り口の前の入院受付カウンターの前を通ると、
問い合わせをしている人の声が聞こえた。
その後ろ姿。
あれ、団さん?もしかして 。
「 あの、団さんですか?」
声をかけると、
「 え? 君は?」
と振り向いた顔は本当に団さんによく似ていた。
「 僕は今度の事故で団さんに連絡した安藤の息子です。王国です 」
「 そうですか、それは、今回は本当にお世話になりました 」
軽く挨拶を交わして直ぐにセンターに団さんのお兄さんを伴った。
ベンチ前にいる三人に軽く目配せしながら、
センターの看護師にお兄さんを引き合わせると俺はベンチに引き返す。
そして、直ぐに兄貴に相澤の事を伝えた。
震える身体を抱きしめながら、伝えた事実。
蒼ざめて小刻みに揺れる兄貴の身体。顰められた眦からは涙が一筋糸を引く。
それでも俺は相澤の運ばれた病院の名は告げなかった。
告げたくなかった。
兄貴がいってしまうような、
相澤が兄貴を連れていってしまうような気がして、どうしても言いたくなかった。
その後、団さんが検査を終えてセンターに戻ってきた。
包帯だらけの体を不満げに揺らしながら、それでも割と元気よくて安心した。
「 オフクロが丈夫に産んでくれたおかげだなぁ 」
「 まぁ、お前が危険な仕事についてるのは知ってるが、勘弁してくれよ。
いつもろくに連絡もないヤツが、こんな大怪我した時だけ連絡が来るって、俺も辛いよ 」
「 ごめんな、心配かけて 」
その言葉を聞きながら、
「 家族いたんだな 」
と思った独り言はしっかりと団さんの耳に届いたらしい。
「 こら、王国!」
と苦笑されすっかり元気な様子に安心した。
団さんは青ざめた顔で立っている兄貴に手を伸ばしてその手を掴むと、
「 なんて顔してんだ、俺は大丈夫だから、そんな顔するな 」
と強く兄貴の指を握る。
俯いた兄貴は声もなく押し殺した声で泪を流すだけだった。
相澤が記者会見するのは知ってるはずなのにその事には触れない団さん。
団さんは知ってるはずはないよな、相澤さんの事件を分かるはずないんだけど、なぜか疑ってしまう。知ってるんじゃないかと。
俺はもう大丈夫だからと団さんにみんな帰れと促されて俺たちはセンターを後にした。
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