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第320話
お兄さんの秘密 75(王国 )
離れた路上に一台の黒いバンが停車していた。乗るように言われ、和也さんが助手席に俺たちは後ろのスライドドアから車内に入った。
「 お久しぶりです 」
濃いグレーのスーツを纏った細身の人。落ち着いた声が穏やかで、耳の片側にだけ装われたピアスには蒼く鋭く輝く石がはめ込まれていた。
そうだ新宿のポールダンスクラブの支配人、
真山 純さんだった。
予想外の人に驚いて挨拶もそこそこの俺たちに、
自分の向かい合わせのシートに座るよう促す。
「 お疲れ様です。お店が終わったところでごめんなさい。
私が何の用かと途方にくれてますよね 」
頷くと、
「 お兄さん、安藤さんのお兄さんにお願いがあってきました。
直接は面識がないので貴方を通してお願いしようと思って 」
「 え?兄貴に?」
「 ある人からお兄さんを極秘に連れてこられないかと連絡がありました 」
「 ある人って?どこに?」
もしかしてと思いながら返事を待つ。
真山さんは一呼吸置いてから、
「 相澤議員の秘書の方から、病院にお連れしてくれないかと 」
やっぱり……
となりで杏果がコクリと唾を飲み込んだ音が小さくした。
嫌な予感に襲われ背筋に悪寒が走る。
「 なぜですか?
そんなに容態が悪いんですか?」
「 なぜそう思います?」
「 いや、もしかして、もう……
ひとめ兄貴に逢いたいとか 」
「 私は医者ではないので容態の説明はできません。
ただ、重篤な状態からは脱出しつつあると聞きました 」
それを聞き、大嫌いな奴だけど本当に心から安堵した。
兄貴もこれで救われる。
少し落ち着いた俺は真山さんに質問した。
「 何で和也さんが?」
「 私が連絡先を知っているのが山尾 嶺さん、そしてそれなら佐伯 和也さんを通してという話で、ね、
お手伝いしてもらいました 」
「 俺もコウの事が気になってたから、恍紀はどうしてる?」
「 仕事はしてます 」
杏果がまたメソメソしだすから、肩を抱いて引き寄せる。
「 いつ頃会えるんですか?
兄貴にも会う意思があるかどうか聞かないとならないし、それにこのことは僕たち以外には内緒ですか?
今は親も兄の行動には神経質になっています。兄が行くと言っても休みの日じゃなければ黙っては出られない 」
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