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第28話
母の日って ( 後編 )
「しばら、く、だね、ヒロシ」
背中に声をかけられたのに、返事も振り返りもしないヒロシさんに
僕が、
「ヒロシさん」
と声をかけると、その男の人は
僕の方を振り返って
初めて僕の事に気がついたみたいに、
「君は?」
と声をかけて来た。
その人物が誰だかもわからずヒロシさんも応えないので、返事に困っていると
「ああ、桜の息子か」
と母の名を呟いた。
立ち上がって声をかけて来た男性と向き合ったヒロシさんの顔に
僕はビックリした。
「本当に…久しぶりだけど、どうしたんだ?」
と聞いたことのない冷ややかな声と態度で応えるヒロシさん。
「いや 家を訪ねたが不在だったんで、もしかしたらここかもと思い
当てずっぽでやって来た」
と応える謎の人。
毎年、母の日にはお墓参りをするんだけど、この人がなんで母のお墓を知ってるんだろ?と
頭の中で疑問符が飛んでる僕
…大きなため息を1つ吐いて
「どういうつもりなんだ?」
と呟いたヒロシさんの声が届いたのか届かなかったのか、
彼はおもむろにお墓の前にしゃがんで手を合わせた。
額に縦じわをくっきり浮かべたヒロシさんのこんな顔
受験シーズンの時でも見た事ない。どうしちゃったんだろ。
そしてヒロシさんは、僕に
ごめんね、先に帰ってくれる?と告げると
その男の人と連れ立って、墓地の奥の公園の方へ歩いて行ってしまった。
え?名前も聞いてないんだけど、
でも、行ってしまったから仕方がないので、墓地を後にした。
帰ったら姉貴に聞いてみようかな?
ヒロシさんに聞いたら応えてくれるのだろうか?
そんな重苦しい感じの出会いをした人物と
又、会うことがあるなんて
この時は考えてもいなかったよ。
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