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第32話

キッスの日 その2 (記念日閑話休題) 美形の漢字が暫くわからず、 「びけいって」 繰り返す僕に 「あ、失礼、 綺麗だって、意味」 「その、びけい ああ。美しい形って書く」 僕の返事に ニヤッて感じで、笑った顔。 薄くて大きめの口から 「返すとこそこじゃないと思うけど」 と又今度はクスクス笑われた。 困った時の僕の癖は 今の疑問を系列で前の疑問から並べてしまうこと。 そして、思い出したのは 朝のラジオのキッスの事 「ラジオで、キスの事をキッスて言ってたので、直ぐにわからなかったんです。 今度はびけいが漢字に中々ならなくて、すみません。」 「返すとこって、どこですか?」 「綺麗って、言われた所」 「なにがですか?」 「君が」 今度は一発で漢字がわかった僕は あっという間に茹で上がったタコみたいに 真っ赤になったに違いない。 「ところで、キッスとキスはどう違うか知ってる?」 満員電車の中で 終始小声で交わされる会話 身体全部に朱が回ってしまった僕。 周りの人は殆どイヤホンして俯いてるから、聞こえないはずと思ったけど、 余計に声を潜めて、身体を近づけて 「キ、キッス 違いなんて、 わかりません」 「恋人はいるの? いるなら聞いて見たら?」 「そんな、いません、聞けません」 「そうなんだ… スマフォ持ってる? 持ってるならメッセ交換しよう。 教えて上げるから、」 こんな怪しいこと言ってくる人なのに 顔を寄せ合って、内緒の話をしてる様な奇妙な連帯感で、 なぜか信用した僕は メッセ交換してしまった。 ターミナル駅に着いた僕らは勿論行き先が違うから、そのまま別方向へ。

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