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第169話
いよいよ、できたデモ映像を持っていざ行かん その29
「 泉 、強引すぎる 」
という真山さんの遮りにも
「 入らないで、彼はいいって言ってるから 」
と聞こうとしない泉君。
小野さんが
「 その条件は泉君と加太さんが会って話しをした後には解消できるの? 」
と聞いてくれた。
「 僕恋人にしてって言いましたよね、
付き合うってよく知り合うために継続するってことでしょ?安藤さん、そうだよね 」
「 そうだな 」
と言葉少なく応える安藤君は僕のことをもう見てない。
「 今夜はもうあがる。打ち合わせにも行ったし、疲れちゃったよ。安藤さん着替えてくるから待ってて 」
と真山さんの答えも待たずにその場を後にした。
やれやれとため息つきながら嶺さんが
「 これで今夜のイベントは終わりだな、真山さん、邪魔したね 」
「 いいえ、この先が気になりますけど、今夜はこれで 」
と2人の終わりの挨拶で僕らは殺風景な支配人室を後にした。
待っててと言われた安藤君も店まで一緒に戻ってくる。途中流星が話しかける言葉を僕は緊張して聞いていた。
「 安藤さぁ、
いいの?お付き合いって、あの子意外とイケイケそうだから直ぐにお試しベットインってあるかもよ 」
わざと煽る流星に僕は唇を噛んだ。
「 おいおい、それよりあのAVの今後のこと決まったら連絡するから、誰に連絡したらいいんだ? 」
「あっ俺で 」
嶺さんと小野さんの会話に僕はますます真っ暗な気持ちになった。
撮影会に出たのがいけない、
女装コスプレ断れば良かった、
あんな動画反対すれば良かった。
今まで深く考えずにやってきたことの後悔が僕を押しつぶす。
そして、最後のとどめ。
着替えた泉君がやってきた。
「さぁ、行こうよ安藤君。僕お腹空いちゃった!どこか連れてって 」
「 そっか、じゃあ…… 」
その後の会話も言葉も聞こえない。
嶺さんの、小野さんの、流星の、誰の言葉も耳に入らない。そのまま逃げるように店を出てタクシーを捕まえた。
お金足りるかな?途中で降りようかな、歩こうかな
と頭の中は滅茶滅茶混乱したけど。
家には帰り着いた。
真っ暗な誰も居ない家、
考えない、考えたくない。
玄関に蹲って
我慢していたぶん、
溢れ出したら止まらない涙を噛み締めた。
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