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第170話
いよいよ、できたデモ映像を持っていざ行かん その30
暫く冷たいタイルの上で蹲っていたせいか軽く寒気がしてきた。クシャミを一つして頭空っぽのまま自分の部屋に行く。
何もする気になれずベッドに潜り込んだ。こんなに悲しくても寝れるんだな、ウトウトしてきてそのまま深い暗闇に迷い込んだ。
ドアをノックする音に気がついて、目を覚ますと、
「 杏果?起きてる? 」
と扉の向こうで姉貴の声がする。
「 うん 」
と返事だけ返しながら目をこするとと、やけに瞼が腫れていていつもの半分しか視界がなかった。
「 開けるわよ 」
と言いながら姉貴が部屋に入ってくるなりぼくの顔を見て、
「 泣いてたの? 」
とまたか、と呆れたように言ってくる。ムッとした僕は、
「 悲しいことがあったら泣くでしょ 」
と返すと、あんたの悲しい事は犬も歩けば棒にあたるほどあるからねぇ、
と意味不明な事を言ってくるので、
「 しょうがないじゃん! 」とむくれる僕に、
「 はいはい、可愛い顔で口とんがらせない。あんたのバッグの中でスマフォうるさく鳴ってるんだけど」
と玄関に起きっぱなしだったバッグを
持ってきてくれていた。
ありがとうと言いながら時間を確認すると、もう昼近い時間だった。
「 私、休みだから今から出てくるけど、ヒロシさんも留守だし、あんた今日の予定は?」
昨晩の事を思い出し又涙を零した僕を見て、珍しく姉貴が優しく、
「 何か困ってるなら、言いなさいね 」
とドアを閉めて出て行った。
もともと僕らの家は3人家族全員血が繋がっていないせいか、お互いの表情や仕草には気を遣う。
姉貴は普段は僕をモデルにしたりこき使う方だけど、僕の機嫌には敏感なところがある。
心配かけてるかな?
と思いつつも、今回ばかりは相談なんてできないよね。だって、撮影会や女装のコスプレを今更ながら後悔してるなんて、そんな気持ちを伝えたくない。
また暗くなりながらバッグからスマフォを出した。着信はハンドメイドサークルからの数件のデイリーメール。
元々友だちも少ない僕は普段から殆どラインやメッセージのやり取りする相手もいない。
そして、
あれだけ頻繁だった安藤君からのメッセージも昨夜から無かった。
僕からラインしても良いのかな?
できないよね……
すっかり元の引っ込み思案な僕に戻ってしまった。
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