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第172話
惑う こころ その1
駅向かう道を歩きながら、僕は今会った恋人たちのことを考える。
今まで具体的なことは考えないようにしてたけど、ヒロシさんと割井さん2人があんな風に自然な姿で隣にあるのは、どんな壁を乗り越えてきたんだろう。
どんな気持ちの強さが必要だったのかな?別れ話もあったんだろうか?
僕みたいに優柔不断で意気地がないと乗り越えられないんだろうな……
まずい、また涙が出てきちゃった。
駅に着く頃には漸く涙も止まり、少しはマシな顔で電車に乗れた、
荻窪駅にはもう和也さんが来ていた。
和也さんは会うなり僕の格好を褒めてくれたけど、やっぱり和也さんの方がカッコいい。
薄い生地の白い細身の長袖シャツの袖をロールアップ、ブラックの太もも丈ショートパンツに足にはボルドー色のスキンタッセル。
髪の毛はティァードロップのサングラスでヘアバンドがわりに額をだして、
涼しげなその姿に道行く人が目を止めてる。少し筋肉質の脚に背も高い、やっぱりモデルだったんだなって姿でしばし見とれちゃうよね。
「 さあ、行こう 」
と和也さんが連れていってくれたのは、何軒か古い食堂や商店が集まってる路地の中のおでん屋さんだった。
「 夏におでん、おいしいよ 」
と言いながらガラガラという昔ながらの引き戸を開けて中に入る。
カウンターだけの小さなお店に、小太りでクルンクルンパーマのおばさんが1人湯気を上げてるおでんのお鍋の向こうにちんまりと座っていた。
その隣には白黒のブチ猫が香箱を抱えてる。
わ、ジブリの世界
「 いらっしゃい、お久しぶりだね 」
「 うん、ちょっと忙しかった 」
と親しげに会話を交わすから和也さんのよく来るお店なんだね、きっと。
「 杏果はおでん好き? 」
「 和也さん、今頃それ聞く? 」
2人でくすりと笑った、なんか最初からスッキリした気分。
「 僕んち、ヒロシさんと僕は和食好きだからおでんとか好きだけど、姉貴が肉食じゃない、だから家では出てこない 」
「 わかるよ、響子は肉肉、魚、肉肉って感じだもんな 」
「 うわぁ当たってる 」
と久しぶりに声を上げて笑った。ビールでいい?と聞く和也さんにもちろん!と答えたら、おばさんがさっさと瓶ビールの大瓶といかにもなビール名の入ったコップをドテンとカウンターに置いた。
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