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第173話

惑う こころ その2 「 おでんはさ、最初に糸こん食べて味見するんだよ 」 「 そんなルールあるの? 」 「 いや僕もこの店のおじさんに習ったんだけど」 「 おばさん、糸こんちょうだい」 「 はいよ 」 少し深さのある中皿に、丸めて縛られた糸こんにゃくとたっぷりおでんの汁がつがれてでてきた。 これねと、 皿の脇にたっぷり塗られた辛子を、つゆに溶かす和也さん どうするの?と見ていると 「 糸コンをほぐして、 麺のように食べるんだよ 」 とすすってる。 「 この食べかたで出汁の味もしっかりわかるし、こんにゃくに味がしみてれば他の具材にもしみてるってこと 」 へーと言いながら僕も習って食べてみると、たしかに上品な塩味の出汁が効いていて 「 美味しい! 」 「 醤油おでんじゃなくて、薄味でもしっかり出汁が効いてるでしょ 」 たしかに汁の色は透明に近くて、醤油おでんじゃない。 次は何にしようかと迷う僕に、和也さんの方は大根を2つも頼んでる。 僕もなんとなく和也さんの食べるものが美味しそうで、真似して具材を頼んだ。 お腹もだんだんと満たされてきた頃、 今日は和也さんに話をしようと思ってきたことを思い出した。 でも、和也さんにどこまで話したらいいかと迷っている僕に、和也さんの方が話を始めた。それは本当に予想もしてなかった話だった。 「 僕はさ、いわゆる孤児院で育ったんだよ。両親がわからない捨て子。親戚も見つからなかったって話だった」 「 え? 」 「 驚くよね?話したことなかったもんな。 施設の中も面白くなくて中学出る頃には荒れて、遊んでて、お金欲しさにウリもやってた。その金でまた遊び歩いて」 ウリって…… 「 その時一緒に遊んでた仲間に救われたことがある。ウリをその手のやつらの店でやってるのがばれてね、地場の奴らに捕まってAV出ろって、何本か酷いマニア向けのゲイビデオを撮られた。ほとんど軟禁で。そんな時にその子が助けに来てくれてんだ」 目の前にいる人の過去はあまりにも現実の姿とはかけ離れていて、 話の展開にただただ驚くしかない。

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