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第176話
惑う こころ その5
あれ?この道、この間打ち上げでも歩いた道だ。
着いた所は先日撮影会の打ち上げをした時に店の前で安藤くんと会ったラーメン屋だった。
ガラリと引き戸を開けて店の中に入ると、前にもいた綺麗な女性が
「 らっしゃいませ!何名ですか?」
と声をかけてきた。
やっぱり誰かに似てる。
「 2人、カウンターで 」
と和也さんが答える。
20人くらい座れる長いカウンターはそこそこお客でいっぱいだった。
「 ごめんなさい、席詰めてもらえます? 」
と女性が別のお客に声をかけてくれて、
なんとか奥の端の方に2名分の席が空いた。
手元のスタンドメニューを見ながら、
「 なんにする?餃子もいける? 」
と聞かれ頷くと、
「 先に餃子とビールください 」
とカウンターの奥の男性に声をかけた。
「 奥のお客さん!餃子、ビールね」
と威勢よく答えたのは先日は見かけなかった男性で、ちょっと年配の人。この人の声も誰かに似ているみたい。
和也さんも熱心にカウンターの奥の厨房を見ている。
「 和也さん、どうしたの? 」
と聞くと、
「 あ、いいや 」
と元気なく答えた。
先に来たビールを飲みながら壁にずらりと貼られた品書きを見ていると、店の入り口付近のテーブルに1人で座ってる男性がこっちをずっと見ているのに気がついた。
知り合い?だれだろう?
和也さんに、
「 あっちのテーブルの人が僕らのことずっと見てるんだけど、和也さん知り合い? 」
と耳打ちをする。
和也さんは品書きを眺めるふりをしてその男性を確かめると、
「 うーん、知らないな、誰だろう? 」
と首を傾げている。
その時店の扉が開き新しいお客が入ってきたのか、その男性が声をかけた。賑やかな店内でもその低くて太い声は僕まで届いた。
「 おう、おうこ、久しぶりだな 」
え?おうこ……?
「 はい、餃子お待たせしました! 」
カウンターから餃子が出されその声でその後の男性の言葉は聞こえない。
僕が乗り出すように店の入り口を見ていると、和也さんの席の方がよく見えるのか、
「 今来た子、杏果の……あ…」
言葉が途切れた和也さん。
僕も言葉が出なかった……
安藤君とその側にもう1人立っているのが見えた。
安藤君の後ろから入ってきた子は
泉君だった。
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