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第180話
惑う こころ その9
「 厨房はいつも何人いるんですか? 」
「 いつもは3人、今日は上の息子が風邪ひいちゃって2人で回してるから忙しかったんだよ 」
「 上の息子さん?前来た時にいた人かな? 」
和也さんの声が少し震えて聞こえる。
「 多分そうだろう、王国の兄貴でコウキって名前、もう1人のコックもコウさんだから紛らわしくってね 」
「 コウキ…… 」
和也さんが繰り返すようにつぶやいた。
「 忙しい時にはコウさん、コウキって舌噛みそうになるんだよ 」
笑いながら話すおじさんの前に座る和樹さんを見ると虚な顔をしている。
「オッ、書けた? 」
と僕からノートを受け取り、
条件の話になった。その間中和樹さんはボンヤリと明後日の方を眺めている。どうしたんだろ?元気ないな。
「 それじゃ未成年じゃないけど、一応親御さんにはバイトすることは伝えておいて、ね、年末調整とか扶養家族だと税金のことで色々あるから 」
「 はい、わかりました 」
「 それじゃぁ、週末からか?
よろしくね 」
おじさんが立ったので、僕らも挨拶をしていると、おうこがやってきた。そして、いやだ…。その後ろには泉くんがいた。
「 ちょっと、いいですか? 」
と和樹さんに断ると、
泉くんを僕の前に座るよう促した。
ふてくされたような顔をして僕の前に座った泉くんが唐突に
「 会うんだ、 明後日 」
そう言った。誰に?と思った僕に、
「 三枝さん、あんたに一緒に来て欲しい 」
「 一緒って、どこに? 」
「 だから、あいつに会うときに、あんたに、一緒に来てもらいたいの 」
驚いた僕に、
「 責任取ってよ、あんたが伝言預かってきたんだろ 」
責任……って
思わず安藤くんを見ると、
泉くんの後ろに立ってる安藤くんは、
まったくの無表情な顔。
こんな顔、見たことない……
安藤くんって、表情豊かで、目はいつもキラキラしていて、色々なことにちょっかいを出すような、暖かくて、賑やかでって、
全然違う。
ブルっとした僕は、泉くんに
「 一緒に行く理由が責任とれ、といことだったらわかった。
たしかに君を探し出して、預かったものを渡したのは僕だから 」
おや?と意外だという顔をした後、
泉くんはすごく嫌な笑みを浮かべた。
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