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第193話

惑う こころ 22 ふっと額に濡れたような感触を感じる。眼をゆっくりと開けると身体には毛布がかけられていた。 近くで話し合う男の声が聞こえてる。 撮影、時間、泉が、 バラバラな言葉を集めて、 僕はどうして横たわっているのか思い出した。 声を出そうとすると、誰かに肩に手を置かれ 「 起きた?大丈夫か? 」 と声をかけられた。 「 おう、坂本、その子起きたんだったら、なんか飲ませて 」 「 何か飲むか? 」 と坂本と呼ばれた男に聞かれたので、 頷くと水の入ったペットボトルを渡してくれた。 この男は悪い人でもなさそうなのに、でも僕は誘拐?されたんだよね 思い切って聞いてみた。 「 僕は帰して貰えるんですか? 」 「 え? 」 「 撮影が終わったら、どうなるんですか?僕は? 」 言いながらだんだん怖くなってきた。 ここにいることは誰も知らない。 「 おい、ちょっと待てよ。 泉から何も聞いてないのか? 」 「 さっきも言ったけど、泉くんがある人と会うのに立ち会ってほしいと頼まれただけです 」 僕の話を聞いていた周りの人たちも、首を傾げて僕を見ている。 「 どういうことだ? 」 1番リーダー格の様な人が聞いてきた。 彼らの雰囲気が変わってきた… 「 それは僕が聞きたい。 五反田で会おうって連絡があってその後辻堂駅まで来いと言われたんです。僕はてっきり面会の場所が変わったのかと思って……」 「 あんた、泉のことよく知ってる? 」 「 知りません、最近知り合ったばかりで 」 「 ひょっとしてあいつが借金抱えてるのも知らない? 」 知らないと頷く。 「 僕は偶然ある人から預かったものを渡すために泉くんを探しただけですから 」 「 おいおい、話が違うぞ 」 その時、 ピンポーン!とインターホンが鳴った。 モニターに近づいて来訪者を確認した男はびっくりした様にすぐ応対に出て行った。 何人かの靴音が響く、開けられた扉から入ってきたのは真山さんだった。 真山さん‼︎なんで? その後から背の高い人と泉君が連れ立って入ってきた。 「 泉君! 」 と僕が叫ぶと彼はツンと済ましたまま明後日を向いている。 こんなに頭にきたのは初めてだった。 僕は泉君に駆け寄って、 人生初めてのパンチを力を込めて、 泉君の腹に入れた。

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