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第194話
惑う こころ 23
「 ぐっ……」
うめき声をあげて泉君が僕の方に倒れこむ。 しまった、力一杯やっちゃった!
と思ったら、僕の横っ腹に強烈なパンチが飛んできた。
息ができない、うずくまる僕にもう一発蹴りが飛んできた。
俯いた顔に見事に膝蹴りを浴びたらしい。
僕は鋭い痛みを頰に感じて、そのまま床に這いつくばった。
口の中が切れたらしい、どんどん血が口内に出てくる。
その血が喉に逆流するのと吐き気が一緒に襲ってきた。
おい!と言って飛んできた男に抱き抱えられる。
痛みに気を失いそうな僕の顔を横に向けた。床に口内に溜まった血を吐いてえずく僕の背中をさすりながら、
「 酷えな、なんで顔を狙ったんだよ! 」
と泉君に怒鳴る声はさっき僕に口付けた坂本という男のものだ。
「 ふん、先に殴ったのはそっちだよね!顔少し腫れてるぐらいがSMにはいいんじゃないの? 」
泉君はさほどダメージもないのか普通に喋っている。
「 なんだと…… 」
気色ばむ男を止めて、泉君をたしなめたのは真山さんだった。
「 泉、いい加減にして!
三枝君をこっちで寝かせて手当てして、撮影中の暴力沙汰はまずいから 」
その一言で場は冷静になった。
「 まったくあいつは背中を狙ったな、背中は脾臓があるからやばいんだ、大丈夫か?痛いのはどこ? 」
僕が脇腹を抑えると、
「 ああ、そこか 」
と言いながらだれかが持ってきたアイスノンで僕の頰を冷やしてくれる。
「 手も痛いだろ? 」
そう言われて初めて気づいた。
「 喧嘩慣れしてないと殴った方が怪我するんだ 」
とぼくの右手を見ながら、これなら湿布でいいかとつぶやいた。
彼はしばらくお腹を押したりして痛い?腫れてる感じがある?と尋ね、
やっと大丈夫そうだと真山さんに告げた。
「 撮影は次回に回さなきゃならないな」
「 撮影ってなんだ?私と泉が会うのに泉が立ち会ってもらうつもりだったようだけど、彼はどうして裸なんだ?」
その時一緒に来ていた俳優の加太さんが初めて声を上げた。
そうだ、僕は裸の上に毛布をかけられていただけだったんだ。怒りのあまり真っ裸で泉君を殴ったことに今更ながら自分で驚いた。
坂本さんが僕の服を持ってきてくれる。助けてもらいながら服を着ると、坂本さんは僕の手を一回ギュッと握りしめた。
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