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第203話
惑う こころ 32
「 じゃあ、真山さんとおうこと、いる時には気持ちが楽だったんだ 」
「………そうだよ、楽だって。自分が自分のままで良いんだって思えるから」
「 ねぇ、それが寄り添うってことじゃない?心から許してもらえる、自分が自分で良いんだって思える相手 と一緒にいられる 」
「 自分が、自分で良いって思える相手…… 」
「 目の前の自分のことをそのまま受け入れてくれる相手 」
「 そのまま受け入れてくれる相手? 」
「 僕も女装が平気なんて、あんな格好で人前に出れるって、最初はすごく悩んだ。
でも、受け入れてくれてこんな僕を大切にしてくれる人が周りにいるって思ったら気持ちが変わっていった。
このままの僕で良いんだ、1人で悩んだり無理をしないで良いんだって。
泉くんもね、きっと、そうなる、そう思うようになる、と思う 」
「 お前なんかと一緒にするな 」
強がりを言う泉くんの声がなんとなく優しくなったような気がした。
僕の役目はここまで、あとは誰に?そう思っていると、静かに話しだした人がいた。
「 そうだよ、泉、わたしも今のお前を大切にしたい。どうか話をしてくれないか?あの書類も私の気持ちを泉に伝えるつもりだった。でも急にお前の気持ちも考えずに養子縁組の書類なんか渡してしまって混乱しただろうね、本当に悪かった。今度こそお前に寄り添うから、逃げないから、お前の話を聞きたい 」
加太さんがそう伝えると、
「 いやだ、なんだかわかんないけど今日はいやだ…… 」
と答える泉くんの態度が駄々っ子のように見える。こんな可愛い表情もできるんだ。
「 よし、この先は真山がなんとかしなさい。
杏果、お前は本当にいい子だね、
ますます気に入ったよ! 」
とサンドラさんが抱きついてきた。
これで大丈夫なのかな?
預かり物は渡せたのかな?
真山さんに任せて僕は帰れるのかな?
「 三枝さん。今度のことは泉が迷惑をかけて本当に申し訳ありませんでした。
今後、今ここにいる連中には一切関わり合いはもたせません。
また改めて泉にお詫びさせますが、今日はこのまま、東京まで車で送らせますから 」
真山さんはそう言うと丁寧に頭を下げた。
そして、周りのもの達にも絶対に今夜見たこと聞いたことは他言無用を言い渡した。
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