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第206話

閑話 小次郎のアイドルは、 ニャンニャン その1 僕の人生初のアルバイトの日。 薄いブルーの半袖クレリックシャツ にボトムには黒のスキニーを着て、 ダイニングに降りた僕をニヤニヤしながら姉貴が眺める。 「 杏果は今日からラーメン屋のバイトなんですって、ラーメン屋にしてはえらいめかしこんでるわね 」 響子がヒロシさんにそう伝えると ヒロシさんは、 「 社会勉強、しっかりね。お金を稼ぐということはそれなりの責任が伴う大人への第一歩だね。 身なりは清潔に、挨拶ははっきり、感謝の気持ちを忘れずにね 」 と高校教師らしいアドバイスをくれる。 姉貴は大笑いしながら、 「 大げさな、 杏果、とちるんじゃないわよ ! お客の頭にラーメンぶっかけたり、 餃子と焼売間違えたりしないようにね 」 とこれもトンチンカンなアドバイスをくれた。 お店でユニフォームは貸してくれるから適当な格好でいいと言われたけど、安藤くんのご家族と働くのだからそういうわけにはいかないよね! 僕は身なりを鏡で点検してから家を出た。 ホームで時刻表を眺めていると、 流星が同じような軽い感じの男と二人連れで歩いてきた。 運が悪い、こんな日に流星に会うなんて。 「 よお、杏果。どこ行くの? 」 「 う、うんちょっとそこまで 」 「 そこって? 」 言いたくないので黙ってる僕に流星は隣に立っている男の紹介を始めた。 「 こいつは滝田って、俺の大学のダチ。滝田の家が吉祥寺でさ、昨日は泊まったんだよ。 それで、こっちは俺の親戚の三枝杏果 」 「 親戚なの? 」 「 そう、一応ね 」 親戚じゃないよねと思ったけど絡まれると面倒なので黙っていた。 「 綺麗な顔してるけど、大人しいね 無口な子なの? 」 無口だと言われてこんな態度じゃ失礼だったと思い、 「三枝です、初めまして 」 というと、手を叩いて 「 うわー喋った! 俺は滝田 省吾でーす」 と喜んでいる。 喋ったって、なんか失礼な人だなとむすっとすると、 「 杏果、だからどこ行くんだよ 」 と流星はしつこく聞いてくる。 ゴーっと音を立てて電車が入ってきた。 停車したタイミングで 「 教えるわけないだろ……」 と呟いて、僕は電車に乗り込んだ。

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