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第252話
お兄さんの秘密 7
安藤君はしばらく部屋の中で引き出しを開けたり机の上のメモを見たりしていたけど、徐に何か打ち込んだ。
「 当たり!わかりやすいパスワード、単純な兄貴らしい 」
と言いながらせっせと◯パッドを操作する。
「 わかったの?」
「 ああ、すごい単純なパスワードで笑っちゃう。 あれ?近くだ……」
僕も画面を覗き込む。
「 これ?」
と指差すと、
「 そう、すぐ近くだ 」
そのまま、安藤君は◯パッドを持ち、
「 ちょっと行ってくるけど、杏果はもう帰った方がいい 」
おでこにキスをすると心配しないでと言わんばかりに軽くハグされる。
何言ってるの!
「 僕も行く!お兄さんが乗った車は僕が覚えてるんだから 」
来ちゃだめだよっという安藤君と言いあいながら部屋の外に出ると、階段を上がってきたお姉さんとばったり会った。
「 兄貴探して来るから、沢木のビルの辺りってオヤジに言っといて!」
と階段を急いで降りる安藤君に僕も続く。通りに出ると手を握られる。
「 この辺、前に俺がやばいって言ってた辺り覚えてる?泉が出入りしてるのを見たっていう 」
コクリと頷くと、
「 沢木のビルってこの辺では幅を利かせてる人が持ってるビルでさ、うちで出前に偶に出入りしてたって 」
うん、あの時その話聞いた。
「 何回かつけを溜められて払ってもらうえなかったんで、最近は出前にも行ってなかったんだけどな 」
安藤君は喋りながら僕の手を離し器用にスマフォを操作すると誰かに連絡したようだった。
歩道の人混みは週末だけにやけに激しい。安藤君はその人混みを避けるようにより路地裏に入っていく。
夏の名残を含んだしめぼったい風が
吹く。喧騒の中にたった一人の話し声。好きな人の声がどこまでも聞こえる。
ああ、僕は彼が好き、こんな自覚を何回もしていくのが恋なんだ。
軽く手を引かれ安藤君に抱きしめられる。ここは通りから入った暗がり、誰に見られることもない。僕も遠慮なく彼の背中に手を回す。
「 今団さんに連絡した。千葉の方にいるらしい。それでも直ぐにこっちへ来るって言ってる。やっぱり杏果はこのまま帰って、何かあったら危ないから 」
「 帰ると思う?」
「 ダメ、帰らせる 」
どの口が言うの?
僕は自分から安藤君のイケズなことを言う唇を塞ぎにいった。
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