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鮫島モンスター①

  【鮫島史(さめじまふびと)という男、正直に言いましょう、大嫌いです】  何故なんだ?知らないうちに二日が経っていたいや、理由は明白だ。剰りにもやることが無かったから、こうなった。出て行けとも言われないしな。寧ろ、俺の存在が無いみたいだ。  未だに知らぬ男の名前。昨日、一日俺は奴を観察していた。何も面白いことは無かったが、奴の行動をリストアップしてみようじゃねぇか。  ・朝、寝室にいない。寝ない。起きない。  ・朝飯、食わない。水、飲む。  ・未知の部屋に籠る。  ・昼、部屋から出てこない。  ・昼飯、食わない。  ・夕方、部屋から出てこない。  ・夕飯、食わない。水、飲まない。  ・夜、寝室にいない。寝ない。  ……馬鹿じゃねぇのか?普通、死ぬだろ?  いや、実際死にかけているのは此方の方だ。奴が食わないということは、俺も食わないということだからな。  俺は生まれてこの方、料理なんざしたことはない。人の家の冷蔵庫を勝手に覗くのは気が引けたが、仕方なく中を見てみた。食材はある。だが、俺は料理が出来ない。生肉は食えない。 「んだよ!」  バタンと冷蔵庫を閉めた途端、俺の腹が鳴く。気を紛らわせる術も知らず、俺は長ソファに仰向けに倒れ込んだ。  同時に、バキっという凄まじい音がしたため、俺は自分がソファを壊してしまったのかと思った。何も知らない、という顔でやり過ごそう。そう考えたが、途中で俺はそれがある部屋の扉が勢い良く閉められた音だと気付いた。  視線をそちらの方に移動させると、乱暴に閉じられた扉の前に男が立っていた。まるで悪魔が降臨したかのような、どんよりとした空気が纏わり付いている。  その姿を見て、俺は「何故、開ける時は音がしなくて、閉めた時にあんなにデカい音が出たんだ?」なんて、どうでも良いことを考えていた。  今すぐにでも「腹が減った」と言いたいところだが、そんな雰囲気では無い。フラフラと彷徨い歩くゾンビのように、此方へ向かってくる男。  おいおい、大丈夫か?  目の下に黒いくまを蓄えた奴に、何かを言われるんじゃないかと思って身構えたが、そういう意味で身構えたんじゃねぇよ、と思うことになる。 「ぬぉっ!」  空きっ腹にダイレクトに体重を受け、顔を顰めた。やはり、大丈夫では無かったのだ。このデカ物、とんだ誤作動だな。  何を考えていたのか、男はソファに寝そべる俺の上にうつ伏せに倒れてきたのだ。それも、結構な勢いで。  肘掛けの方から倒れてきたため、足が外にはみ出ている。顔は俺の胸の上に完全についているし、もしかして……? 「おい、あんた?大丈夫か?」  軽く肩を揺すってみる。 「……」  返事が無い。 「まじかよ……?」  ついに死んだか。 「なぁ……」  何かを言おうとして、口を閉じた。寝息が近くから聞こえる。どんな状況なのか、よく分からないが、男が重たいということだけは、よく分かった。  俺は反射的に挙げた自分の腕を何処に戻せば良いのか悩んだ。自分の首の後ろで組んでおくか、今にも横にずり落ちていきそうな男の身体を支えるために使うか、それとも、自らの両目を覆い自分も眠るか。  さあ、どれにする?  空腹から逃れるための現実逃避だったのかもしれない。俺は選択肢の中の二つを選び実行した。左手は男の身体……、では無く、頭へ。右腕は自分の両目を覆うために使った。  ずり落ちていきそうな男を見ておきながら何もせず、起きた時に文句を言われても嫌だからな。この左手は、何かしらのアクションを起こしたという証拠だ。恐らく、助けなくとも奴はずり落ちないだろう。  まあ、ずり落ちても知るものか。  両目を覆った右腕の隙間から、光が少量だけ入り込んでいる。逆にそれが俺を眠りの中へ引き摺り込もうとした。絶対にそうだ。  決して、上に乗った毛布の体温が心地良かったからでは無い。断じて、違う。だが、意識が落ちる瞬間、そんなことどうでも良いと思った。

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