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鮫島モンスター⑥
◆ ◆ ◆
リビングにカチャカチャと皿とスプーンが当たる音が聞こえている。双子が寝た後、何故か、俺たち四人は四角いテーブルを囲みカレーを食べていた。
「鮫島くんは、私の十五歳上の姉と洋平さんの息子なの」
静かな空間で多栄子さんが話し始める。なんとなく、良い雰囲気では無い。多栄子さんと十五歳離れた姉と洋平さんの三角関係。
「でも、姉さんは五年前にガンで急逝してしまったの。それで……」
多栄子さんの話しはこうだ。
五年前に他界した鮫島の実母、鮫島史子(ふみこ)さんのことで皆傷付いていた。傷を埋めるように、互いに助け合い、いつの間にか恋に落ちていた洋平さんと多栄子さんが再婚。そして、双子が生まれた、と。
「あれ?でも、灰原さん、鮫島くんって……」
鮫島が多栄子さんのことを呼び捨てにする理由は、二人が歳的にあまり離れていないことと、小さい時から近くにいたからだそうだ。
だが、何故、多栄子さんは鮫島のことを苗字で呼ぶのか。
「自分の名前が嫌いだからだよな?史(ふびと)?」
「知っていて呼ぶな、親父」
カレーを食べ終えた鮫島がムスッとした顔をする。
「じゃあ、こちらのことも親父と呼ばないで欲しいな。パパと呼びなさい」
「ふざけるな」
さすがに、それは拷問というやつだ。少しだけ可哀想だと思う。だが、そんな風に哀れみを感じた俺が馬鹿だった。
「おい、食べ終わったのなら帰るぞ?」
グイッとスプーンを持った方の腕を掴まれ、無理矢理立たされた。カタンと皿に落ちるスプーン。
「は?俺は今日……」
「つべこべ言うな」
何故、俺が睨みつけられなければならないのか。何故、二人は何も言わず和かに、鮫島に引っ張られて行く俺を見送っているのだろうか。
「寒っ!」
暖かい部屋から一転、外は真冬だ。吹雪いている。街灯の光が今日は弱く見えた。大雪警報発令中。
「吹雪だからな」
微かに見える奴の整った顔。
涼しい顔で言ってんじゃねぇよ!
「俺はな、今夜は灰原さんちに泊まる筈だったんだよ。明日、あんたの家に帰れば良かっただろうが?」
嘘だ。明日も帰るつもりは無かった。もう、あんたのことなんか忘れたんだ、俺は。
「くそっ、離せよ!」
道を少し進んだところで、腕を振り解こうとしたが、腕は掴まれたままだった。寧ろ、グイグイと引き寄せられて行く。
「おい!ふざけるな、離せ!」
「煩いな、少し黙れ……」
足を止め、もう一度振り解こうとした時だった。いつの間にか、直ぐ近くには鮫島の整った顔があって……。
「んん、ん……!?」
何か文句を言ってやろうと開いた口は、気付けば口づけで塞がれていた。面食らい、一瞬停止した俺の動き。再起動した時には腕は掴まれたままだったが、奴は俺から離れていた。
「いきなり何すんだ……ッ」
吠えるように言った後、掴まれた腕を引っ張ってみたが、やはりビクともしない。
「さぁな」
「さぁなって、何だ!」
怒鳴ってみたが、俺は直ぐに静かになった。鮫島が、フンッとか鼻で笑ってくれりゃ、馬鹿にされたんだと分かるんだがな。「分からない。お前、俺の半径一メートル以内に近寄るな」なんて、やけに真面目な顔で言うもんだから、俺は何も言えなくなった。
半径一メートル以内に近寄るな、と言っておきながら、掴まえた腕は離さない始末。そのまま引っ張られ、鮫島の家に帰宅することとなった。そして、家に入るなり、玄関に置き去りにされたということは言うべきか、言わざるべきか……。
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