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混沌クライシス④

   ◆ ◆ ◆  そして、冒頭に至る。  秘密を知ってしまった俺だが、予想以上に自分が冷静でいられることが不思議に感じられた。恐らく、三千万を受け取り、この家と鮫島と灰原家と決別することしか、頭に無いからだと思う。こんな邪魔者は、早く姿を消さなくてはならない。そのためには、三千万の男に会う必要がある。何処かのパーティーに参加しなければならない。次の"夜のお散歩"は、いつなのか、鮫島に聞きたいところだが、今朝も奴はあの部屋に篭っている。  多栄子さんを装って、扉をノックしてみても良いが、あまり善い方法とは言えない。出て来ないのは目に見えているからだ。元々良い仲では無いが、俺が鮫島を避けてしまっているからか、現在、互いの仲はギクシャクしている。会話もゼロ。こんな状態も直ぐに終わる。  そうだ、去り際に置いて行く手紙でも書くか。  寝室にて、適当に紙とペンを見つけ、鮫島が普段来そうに無い場所へと移動する。俺自身、避けていた場所だ。寝室の隣の部屋、出来れば思い出したくもない、"最初"の部屋。あの時、奴は本当に絵を描いていたのだろうか?  端に放置されていた四角い木の箱を真ん中へ移動し、真ん中に放置されていたもう片方の椅子に腰を降ろした。移動した椅子を机代わりにする。書き始めの文字は「拝啓、鮫島様」。漢字は苦手だし、字も汚い。もしかしたら、別の誰かに宛てた手紙だと勘違いされるかもしれないな。それなら、それで、別に良い。 「どうすりゃ、良いんだ?」  悩んでみたが、上手く言葉が見つからない。凄く親しかったわけでも無いからな、上辺だけの言葉を並べるだけでも良いだろう。 「短い間でしたが、お世話になりました。ありがとうございました。っと、こんなもんか?」  持ち上げて気付く。文を真っ直ぐにさえ、書けないのか、俺は。苦笑いを浮かべなから手紙を折り畳み、立ち上がった。いつか、この手紙を置いて行く時が来る。まさか、その時が、こんなに早く来るとは、俺は夢にも思っていなかった……。

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