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混沌クライシス⑤
◆ ◆ ◆
夕方、六時半。
「おい、出掛けるぞ?」
もう未知では無くなった部屋。そこから出てきた鮫島に、そう声を掛けられた時、俺はリビングのソファに座り、ぼーっとしていた。心の準備はしていたが、やはり、徐々に緊張してくる。もし、鮫島に途中で気付かれてしまったら、どうなるのだろうか?得るものが無いまま、此処から追い出されるのか、それとも、警察に突き出されるのか。
「へいへい、直ぐに着替えますよ」
度々世話になってきたこのスーツとも今日でお別れか、なんて思ったりしたが、良く良く考えてみれば、これを着たまま、俺は去ることになる。
すみませんね、最初から最後まで。
「良いか?絶対に酒は飲むなよ?」
腕時計を確認しながら、鮫島が言う。
「へいへい、飲みませんよ」
もう、どうでも良い、みたいな答え方をする。もっと、何かを言われるだろうと思っていた。何かを言って欲しいと思っていたわけではない。ただ、鮫島の姿を見るのが今日で最後だと思うと、微かに心が痛んだ。
「……これで良し」
奴が玄関の扉から出て行ったのを確認し、リビングの机の上に折り畳んだままの手紙を置いた。さよなら、鮫島宅。ありがとう。
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