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妄想リリィ⑦

 ◆ ◆ ◆  妹のサクノが来てから、早くも三日が経った。 「あの……鮫島さん、大丈夫ですか?」  リビングでサクノがソファに座る鮫島に水を手渡しているのが見える。俺は寝室から出ず、奴が自分の部屋に戻るのを待っていた。実は、三日前から顔を合わせて居ないのだ。俺の作った料理は食っているようだが。 「ああ……、大丈夫だ。すまない、サクノ」  気不味い俺とは裏腹に、サクノと鮫島は仲が良さそうに見える。だから、あの断固として謝ったりしない鮫島が、申し訳なさそうな顔をしているのだ。奴はサクノの名前を気に入ったのだろうか?頻繁に名前を呼んでいる気がする。細く空いた扉の隙間から、二人のやり取りが垣間見えるのだが、鮫島は非常に具合が悪そうだ。理由は分かっている。サクノが居るからだ。いや、それが直接的な理由では無いかもしれない。だが、「寝られない」という鮫島の病は悪化している筈だ。  この三日間、リビングのソファで寝ている姿も見ていないが、きっと、あの畳の部屋でも寝ていないのだろう。今まで、どうやって生きてきたのか知らないが、よく酷い不眠症で倒れずに居たな、と思う。人は寝ずには居られないと言うじゃないか。限界が来れば、奴は眠ることが出来るのだろうか?俺が居なくとも寝られるだろう?いやいや、そもそも俺なんざ関係ないか。偶々、一緒に居る時に鮫島が寝ていただけ……。 「私がいけないんですよね?私がお邪魔してるから……、ごめんなさい」  なんだ、分かっているのか。ショボンとした顔で鮫島の足元に座るサクノが、奴の顔を見上げている。 「そんなことは無い。気にするな。これは、持病だ」  アイツ!いや、あの人!また、サクノの頭に手を!  一つ、鮫島に腹を立てていることがある。それは、あの癒し系の妹を前にして、何故、奴は癒されていないのか、ということだ。普通だったら、癒されまくりだろうに!夜、ぐっすりだろうに!格好付けて、気を張っているのがいけないんじゃないのか?  俺が見ていると知ってか、知らずか、会話を続けるサクノ。 「私、お兄ちゃんには言ってないんですけど、三日後には家に帰ります。両親が喧嘩してるっていうのは嘘なんです。本当はお兄ちゃんのこと、ずっと待ってるんです。だから、私がお兄ちゃんのこと……」  俺は、そこで静かに扉を閉めた。聞きたくなかったからだ。サクノの話も、その話に返す鮫島の言葉も。聞かなくとも分かる。サクノは俺のことを迎えに来たのだろう?  鮫島は、俺に帰れと言うんだろう。俺みたいな奴はいらない、とか思っているんだろう?ただ、本音を見せないだけ。あんたは、とんだ嘘つきだ。俺も同じくらい嘘つきだから、分かるんだよ。あんたの傍に居るための上手い理由が見つからない。だが、ほんの少しだけ、認めたくは無いが、俺はまだ此処に居たいと思っている。理不尽な俺の思考。どうせ、サクノが居なくなったと同時に俺は追い出されるんだろうが。タイムリミットまで、あと三日。会話の無くなった俺と鮫島だが、一方的に少しだけ足掻いてみようと思った……。

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