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逆転アディクション④
◆ ◆ ◆
あれから何日、経っただろうか。突然、ある日の夕方にとある人物が俺を迎えに来た。
「ハロー、お邪魔するわよー?スエキチ居るー?」
洋世だ。何故、俺なのか。鮫島はいつも通り部屋に居る筈だ。ソファに寝そべって居た俺は不意打ちを食らったわけだが、持ち前の俊敏さで急いでソファの後ろに隠れた。いや、あまり俊敏では無かったかもしれない。何故なら……
「ちょっと、なんで隠れんのよ?」
隠れたことが即座にバレていたからだ。ソファに膝立ちになり、洋世が此方を覗き込んで来た。
「どうして俺なんだ?鮫島さんなら、そこの部屋に居るだろ?」
洋輔のことを思い出し、洋世を前にビビリまくる俺。覗き込まれながらも、奴の顔を見れないのはその所為だ。
「何言ってんの?史は死んだのよ」
「は?」
サラッと洋世の口から衝撃的な真実が語られ、俺の時間が止まった。
「いや、意味が分かんねぇよ。鮫島さんは、朝からそこの部屋に……」
チラッと黒い扉に視線を送り、まさか、と思って立ち上がった。洋世の顔を見ずにはいられない状況になった。
「来て」
そう言われるままに、洋世の後をついて行く。黒い扉の鍵が開かれ、空っぽの中身が明らかにされた。
「本当に気付かなかったの?」
誰も居ない部屋を見つめながら、洋世が言う。その冷静な声音は俺を責めているのか?
「……ちゃんと、説明してくれ」
至極、居た堪れない気持ちになる。落ち込む、というより、今の俺は怯えていた。
「説明なんか出来ない。史は死んだの。それだけ」
「そんな……」
そんなことがあって堪るか、と内心では思っていたが、俺は諦めていた。「おいで」と両手を伸ばされる。意味も理由も分からず、俺はその腕に静かに抱かれることしか出来なかった。空っぽの部屋を見つめながら……。
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