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第4章 魔法の記憶③

   ◆ ◆ ◆  いつの間に意識を手放したのか。気付けば俺は、ラウルの部屋に居た。窓際に立ち、薄暗い部屋の中を見つめていた。  いつ、眠ってしまったのか。これが夢だと気付くのに、そう時間は掛からなかった。  窓の外は雷雨、俺は全身びしょ濡れで、きっと今は真夜中だ。あの夢を、また俺は見ている。また同じ夢を見て、また同じ場面で目を覚ます。あの場面まで行けば、俺は目を覚ます。  そう思って、俺はラウルが眠るベッドの横まで静かに歩いて来た。そして、服の中から短剣を取り出し、狼人の王の首に突き付ける。これで夢は終わり、俺は自分の部屋で目覚めるはずだ。目覚めるはず……、だった。  どんなに待とうと夢は覚めなかった。徐々に、徐々に、己の右手に力が入っていく。まるで、自分の身体が自分の物じゃないみたいだ。  まさか、俺は操られている? 「っ、やめろ……」  左手で右手を押さえる。俺が声を出しても、ラウルは何の反応も示さなかった。夢でも、ずっと思っていた。何故、こんなにも近くに居るというのに奴は目を覚まさないのか、と。原因は昼間の爆発でラウルが負傷したからだ。今も、意識が戻っていない。  俺がここ数日見てきた夢は、予知夢だったのだ。だから、これは夢ではない。これが現実……。 「……っ、ラウル!」  幸い、左腕は動き続ける。俺の意思が左腕には残っているようだ。必死に右腕を止め、ラウルに呼び掛ける。 「ラウル!目を覚ませ!逃げろ!」  俺がいくら声を掛けようとラウルは目を覚まさなかった。短剣を握る右腕が、暴走する直前なのか、カタカタと小刻みに震える。  ────くそっ、俺が何とかするしかねぇな……。 「ラウル……」  ラウルの顔を見て、俺は覚悟を決めた。いや、覚悟なんざ必要ねぇよな。俺は自分じゃ死ねねぇんだから。 「……ぐ、ぁあ!……っ」  力づくで俺は右腕を自分の方に引き寄せ、自分の胸に突き刺さした。この痛みなど、直ぐに忘れる。  大丈夫、死にはしない。また、お前と会える。お前と────。 「……なっ……」  とても恐ろしいことが起こった。心臓を刺したというのに、俺の右腕は尚もラウルに向かおうとしていた。意識を失う前に、ラウルから離れなければ。  俺の頭の中には、もうそれしかなかった。暑いのか寒いのか、分からない。ただ、離れなければ。そう思った。 「……っ!」  俺は最後の力を振り絞り、部屋の窓から飛び降りた。こんなに大騒ぎしてるってのに、なんでお前は起きねぇのか。遠ざかっていく割れた窓を見ながら、そう思った。四階から飛び降りるなんざ、もう二度としねぇよ。割れたガラスと共に落ちながら、そう思った。  地面まで、あと少し。俺は凄まじい衝撃を予想していた。だが、衝撃など一切なく、俺は緑色の光に包まれた。  それが魔法だと気付いたのは、逆さまの視界にルイスの不敵な笑みが映り込んだからだ。しかし、俺には分かっていた。ルイスがルイスでは無いことに。  気付いたところで、もう遅い。緑の光に包まれた俺は、直ぐに意識を失った。

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