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「圭!その傷どうしたの?」 教室に入って開口一番に言われ、皆の視線が集まる。 …ですよね。やっぱり目立ちますよね。 「あー階段で転んじゃった」 「何それ、大丈夫?」 「全然大丈夫。それより一時間目ってなんだっけ?」 「えっと、体育だよ」 「え、」 とりあえず話題を変えようと今日の時間割を聞いたら、思ってもみなかった答えがきた。 「うそ、マジで!?運動着忘れたんだけど。」 「そういえば確か今日は一組もあるって言ってたよー。借りてくれば?」 「おっけー。そうするわ」 朝のHRが終わった瞬間一組ヘ行き、悠を探す。 悠は入学式に席が近かったこともあり、高校で最初にできた友達だった。身長は僕よりも少し高いくらいなのに、美人で、男女共に魅了する色気を出している。 本人は全くそんなつもり無いらしいが。 「あ、悠ー!運動着貸してー!」 「お前またかよ。てか、その傷どうした?」 「あはは。階段から落ちちゃった」 「うわっ。大丈夫?」 「平気平気。じゃあ一時間目終わったらすぐ返すわ。」 お礼を言って運動着を受け取ってから教室に戻る。今日はあまり暑くないから長袖でも違和感はないはずだ。これなら拘束の痕や体のアザがバレる心配はない。 皆はとっくに体育館に行ってしまったのだろうか。教室に誰もいないことをいいことに、のんびり着替えができると服を脱いだときだった。 …ガラッ 「…っ!」 急にドアが開き、入ってきた沖田先生とバッチリ目が合った。 「え、、圭、その傷どうしたんだ?」 ………やってしまった。 とっさに隠したがもう遅い。 先生の目は確実に僕の体中のアザを捉えてしまったのだろう。ドアに手をかけたまま固まっている。 「あーちょっと転んじゃって。あはは。でも全然大したことないですから。じゃあ授業遅れちゃうので失礼します」 我ながら苦しい言い訳だと自分でも思う。もう今すぐこの場から逃げ去りたい。ぎこちない笑いを浮かべながら足早に脇を通りすぎようとしたら、ガシッと腕を捕まれて、そのまま連行された。 連れていかれたのは保健室だった。椅子に座らされ傷の消毒をされる。完全に塞がっていなかった傷口は血が滲んでいて薬がしみて痛い。 「ねぇー先生。ほんとに大丈夫だってばー。聞いてる?そんな大げさな治療必要無いし、放っておけば治るよ。だいたいこの程度の怪我は慣れてるから、」 「……慣れてる?」 ヤバッ!!! 今のは絶対失言だった。 「あ、いや、えっと、今のは…」 …………… …………… 気まずい沈黙。 ずっと黙ったままの先生と二人きりの空間で、沈黙になるのが嫌でべらべらと一人で話していたら、言わなくていいことまで喋ってしまって。結果、余計に気まずい。 下を向いて黙っていると先生の深いため息が聞こえた。 やっぱり怒らせただろうかと恐る恐る顔をあげると苦笑いを浮かべた先生がいた。 「とりあえずさ、手当てはしといたから。お前、怪我したらきちんと処置しないと傷残るんぞ。せっかく肌綺麗なんだから、もったいないよ。」 「……うん」 ああ、これから質問タイムだ。めんどくさい。そう思っていた。それなのに、 ……… ……… いつまで待っても何も話しかけてこない。 「え、終わり?」 「そうだけど」 予想外の展開に不信感が募る。 「なんで、明らかに怪しいじゃん。聞かないの?」 「え、聞いていいの?」 そう聞かれて言葉に詰まる。 そんな僕を見て、ふはっと先生が笑った。 「別に無理矢理に聞いたところで、嘘並べるだけだろ。絶対。まぁお前嘘つけなさそうだけど」 …当たり前だ。誰がばか正直に兄に犯されました、なんて言うか。そんなことしたら学校をやめるしかなくなるし、兄にばれでもしたら一貫の終わりだ。つーか嘘位つける。 「だから別に本人が大丈夫って言ってるのならわざわざ聞かないよー。めんどくさいのは俺も苦手だし。でも、まぁ、無理すんなよ」 そう言うと先生は僕の頭をくしゃくしゃ撫でて出ていった。

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