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第5話
優生君を振り返れば、真っ青な顔をしていて「大丈夫?」と声をかける。
「だ、だい、大丈夫······。」
「大丈夫じゃないね。保健室行く?」
「っ、こ、怖い······怖い、怖いよ······」
優生君が泣き出して、どうすればいいのかわからなくて焦ってしまう。
こういう時はハンカチを渡せばいいのか?それとも抱きしめてあげるのがいいのか?
「オメガが休める場所がある。そこに連れて行こう。」
「ぁ、え······えっと、東條、さん?」
「ああ。俺は東條 彰仁 。」
東條さんはそう言って優生君を立たせた。泣きすぎて過呼吸気味になっている優生君は歩くこともままならなくて、東條さんが横抱きにして廊下を歩く。俺はそれについて行った。
「ここだ。もし校内で発情してしまったら、ここに逃げ込むんだ。」
「ここ······逃げ込んで、それからどうしたらいいんですか?」
「中に緊急抑制剤があるらしい。それを自分で打つんだ。」
その部屋の前まで来た頃には、優生君の過呼吸も少しマシになった。
中に入ろうとしたけど、東條さんはそれが出来ないらしい。
優生君を先に中に入れて、俺は東條さんに礼を言うように部屋を出た。
「俺はアルファなんだ。ここにはオメガしか入れない。」
「あ······そうなんですね。あの······俺は松舞千紘です。」
「松舞······。さっきは偉かったな。話を聞いてたんだ。俺は2年で生徒会に入っていてな、新入生の様子見に校内を回っていた。オメガがアルファに刃向かっているのは初めて見た。······あ、いや、言い方が悪いな。すまない。」
東條さん······いや、東條先輩は優しい人だ。見ず知らずの俺達オメガを助けてくれる。
「東條先輩が助けてくれたの、嬉しかったです。ありがとうございました。」
「いや、いいんだ。でもあまりアルファに喧嘩腰に話すのは良くない。激昴してそのままアルファに滅茶苦茶にされたっておかしくない。」
そう言って、頭を優しく撫でられた。
ああ、こうやって撫でられるのは気持ちいいな。
「気を付けるんだ。きっとここには就職の為に来たんだろう?なら問題を起こしてはいけない。」
「はい。すみませんでした。」
「いや······。何かあれば生徒会室においで。俺はいつでもいるから。」
「ありがとうございます。」
頭を下げて、東條先輩が廊下を歩いていくのを見送り、優生君の居る部屋に入った。
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