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第6話

中に入ると優生君は置かれているベッドに座ってぼーっとしていた。 肩に触れるとビクッと震えて俺を見上げる。 「落ち着いた?」 「っ、ご、ごめんね······僕、助けることも出来なくてっ!!」 「あはは、大丈夫大丈夫。いいんだよ。」 泣きそうになってそう言うから、思わず抱きしめると、安心したのか俺に凭れて深く息を吐いた。 「あの······僕のお兄ちゃんがアルファでね、だから怖いんだ。刃向かうなんて絶対にできない。」 「優生君はそんな事しなくていいんだよ。怖いことをわざわざする必要は無い。俺は大人じゃないから、我慢できなかったんだ。」 「······千紘君は強いね。」 「強くないよ。気に食わない事に気に食わないって言っただけ。」 優生君の顔色が良くなって、そろそろ教室に戻ろうと腰を上げる。 そうして教室に戻ると、さっきまでの喧騒はどこにいったのか、皆静かになっていた。俺達に目もくれない。いや、そっちの方が有難いんだけど。 「皆静かだね······」 「そうだね。あ、そろそろ授業始まるよ。」 担任の先生が入ってきて「出席とるぞー」と大きな声で言う。 「なんか、チャラチャラした先生だね。」 「うん······。自己紹介先にして欲しいよね。」 出席を取った先生は、気だるげだ。カーディガンを羽織っているけれど、肩からずれている。それでも顔は整っていて、だからそれすらも様になっていた。 「麻倉(あさくら) 大志(たいし)だ。とりあえず1年間よろしく。何かあれば気軽に言ってこい。これでも生徒指導担当だから。特に松舞と小鹿な。」 生徒指導担当なんだ······。人は見かけにはよらないって事を今ちゃんと理解した。 「この後ガイダンスがある。今から体育館に移動だ。松舞と小鹿は別行動だから、俺についてくるように。」 すぐに移動することになって、俺と優生君は麻倉先生の後ろをついて移動する。 「今のうちにこの学校の安全な場所を全部教えるから、ちゃんと覚えること。」 「はい。」 「あと、さっき生徒会から聞いた。アルファに刃向かうのはいいが、程々にな。」 「······はい。」 その後、いくつかの場所を教わって、緊急抑制剤の打ち方もきちんと教わった。 「最後は······オメガだけを集めて話をする。」 とある教室に入るとそこには十数人の生徒と教師がいた。この様子を見るに、ここにいる生徒はオメガだと思う。 「もし校内で発情したらの話だ。これはしっかり聞いておくこと。」 自分の身を守るために、問題なく生活するために、その話によく耳を傾けた。

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