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第22話 悠介side

朝早く、生徒会室で仕事を済ませ、1限目が始まるギリギリの時間に自分の教室に向かっていると、突然背中に強い衝撃が走った。 驚いて振り返ると涙目のチビちゃんがそこにいた。 「あれ、チビちゃん。どうしたの?」 「っ、千紘君から、電話はっ?」 「千紘ちゃんから?」 携帯の着信履歴に千紘ちゃんの文字は無い。 それを見せると顔面蒼白になったチビちゃんは俺の腕をガシッと掴む。見かけによらずチビちゃんは少しは力があるみたい。 「ち、千紘君、先輩に頼んで精液貰うって、朝に言ってたのに······っ!」 「え······、え?どういう事?」 本格的に泣き出したチビちゃんは、床に座り込んでしまった。それを追いかけるように俺もしゃがみこむ。 「朝からオメガの寮全体が、甘い匂いで酷くて、発情してるのは千紘君だけなのに······。だから、千紘君に病院行くか、高良先輩から精液貰ってって、言ったら、高良先輩に自分で頼むって言うからぁッ」 チビちゃんの話を聞いて所々に疑問に思うことはあったけど、今はそれどころじゃないらしい。 「ちょっと待ってて」 さっきまで生徒会室には生徒会長がいた。 慌ててそこに戻ると、やっぱり目的の人物がそこにいて、厳しい視線が向けられる。 「ねえ会長ー、お願い。昨日のオメガちゃんが発情しちゃって薬も効かないんだ。一瞬だけオメガ寮に入る許可頂戴。」 「······入ってそのオメガを例の部屋に連れて行くのか?」 「うん。そこでじゃないとヤることもできないからねえ。」 そう言うと溜息を吐いて「わかった。」と言い、俺に許可書をくれる。 「今から30分だけだ。他のアルファに捕まるなよ。」 「あー、うん。······なんなら護衛してくれてもいいけど。」 「俺が、お前とオメガの護衛?······時間はないし無理だな。」 ですよね。なんて言葉には出さず、心の中で思う。 「ありがとね会長!」 「早く行け。」 生徒会室を出て、チビちゃんに許可書を見せる。 「これ、貰えたから今から迎えに行く。」 「ぼ、僕、ついて行かない方が、いいですよね······。」 「そうだねえ。でも俺がフェロモンに当てられたらまずいな。······抑制剤飲んで行くけど、千紘ちゃん相手に効くかな。」 「こっち、使いますか?」 昨日も自分に打った緊急抑制剤を渡してくるチビちゃん。いやいや、それ痛いから嫌いなんだよね。 「いいや、頑張って耐えるよ。じゃあね。」 珍しくこの俺が急いでる。走るなんて何年ぶりだ。オメガの寮に近づくにつれて匂いが濃くなって、頭がクラクラする。 門にいるオメガの警備員に許可書を見せて、一応のためマスターキーを借りて中に入った。千紘ちゃんの部屋はすぐに見つかって、掛けられていた鍵はマスターキーで解錠する。

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