25 / 876
第25話
「すぐに落ち着くと思うから、もう少し待ってようね。」
指を抜いて、千紘ちゃんをそっと抱きしめる。
「ん······先輩······」
「どうしたの?」
「迷惑、ばっかり······ごめんなさい······。」
泣いてそう言うから、気にしなくていいのにと思いながら、ぐちゃぐちゃになっている顔をタオルで拭いてあげる。
「迷惑じゃないよ。俺を頼ってくれて嬉しい。」
「······ん、ありがとうございます······。」
どうやら早くも効果が出てきたみたいで、千紘ちゃんの体が落ち着いて、ちゃんと話もできるようになってきた。
「千紘ちゃん、よかったら発情期が終わるまで一緒に過ごそうか。」
「······せ、精液、くれるなら、なんでも······。」
「ふふっ、もちろん、あげるよ。」
疲れたのか眠そうにしてる千紘ちゃんの瞼にキスをする。
「寝てもいいよ。しばらくはここで暮らすしね。」
「······ここで、暮らすの······?」
「うん。ここは発情期のオメガとアルファならいつでも使える場所だ。頼めば食事も持ってきてくれるし、風呂もトイレもあるし、意外と快適だよ。」
そう言って千紘ちゃんの髪を撫でると、小さく口を開いて、何かを言いたそうにしたけれど、直ぐに目を閉じて眠ってしまった。
「······お風呂入れないとなぁ。」
まあそれは、千紘ちゃんが起きてからでいいか。
さて、このまま結局番にならないとなると、うちの親はうるさいだろうな。
どうでもいいオメガに時間を割くな、なんて言われて、俺だけならともかく、千紘ちゃんにもかかっていくだろうし。
どうするべきかなぁ。
ずっと番が欲しかった。俺の家は由緒ある家柄で、早くオメガに子供を産んで将来を安定させろと、親からの圧もひどい。
けれどだからといって誰でもいいわけじゃないんだよな。そこはちゃんと、自分の意思で決めたいと思っているし。
そんな時にこんなに可愛いオメガの千紘ちゃんに出会ってしまったんだ。
俺としては、千紘ちゃんに番になって欲しい。
「······俺の事、選んで欲しいなぁ。」
誰よりも君を愛する自信が、俺にはあるし。
そう思いながら、俺も少し眠ろうとそっと目を閉じた。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!