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第29話
「千紘ちゃーん、怒ったの?」
「いえ、別に。」
確かに俺も嘘臭いって思った。でも、そんなものもあってもいいなぁと思ったのも事実。
「運命の番に期待はしてないです。」
「ああ、そう。」
「でも、そんなのがあったら素敵だなって。」
「······俺はそうは思わないけどね。」
高良先輩の表情が暗くなった。
何を考えているのかわからないけど、だからこそどうしてそんなに悲しそうなのかわからなくて、「先輩?」と声をかけた。
「ん?」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ?いや、ごめんね。ちょっと考え事。」
ふーん、と軽く返事をして、お腹すいたなぁと時計を見ると丁度12時だった。
「先輩、お腹すきました。」
「そうだね。何か頼もう。何食べたい?」
「消化のいいもの」
「了解」
どこかに電話をかけた高良先輩。俺は髪をドライヤーで乾かして、ベッドのシーツを替えて、そこに腰をかけた。
「すぐに来るからね。」
「あ、はい。ありがとうございます。」
隣に座った高良先輩。じっと目が合ってずっと見てくるから、逸らさないでいると、急にキスされた。驚いて後ろに仰け反るとニヤニヤって嫌な笑みを浮かべる。
「さっきまでいっぱいしてたのに。」
「ッ!そ、それは、発情しちゃってて······!」
「そうだねぇ。可愛くて好きだよ。」
またキスされて、咄嗟に顔を離し高良先輩の口を両手で抑えた。
「ダメです!」
「······ふふ」
「ひゃっ!」
手をペロッと舐められた。慌てて手を引くと腰を引き寄せられ、抱き締められる。
「発情期が終わるまで、番みたいなことしてもいい?」
「······そ、それ、楽しいですか?」
「うん。楽しい。千紘ちゃんの表情がコロコロ変わるの近くで見てたい。」
先輩の肩を押して距離を取ろうとしても、力が叶わなくて、結局先輩の腕の中に閉じ込められる。
「ね、ダメ?」
「······終わるまで、ですよ。」
「うん。ありがとう。」
抵抗をやめるとキスされて、「好きだよ」って言われた。顔がぶわっと熱くなった。
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