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第35話
匡と先生が言い合ってる。もちろん、先生と生徒って立場があるけど、それ以前にアルファとベータっていう歴然とした差がある。
他の先生もベータなようで、アルファには逆らえないから、匡を怒ったり止めたりしない。
「あ、あの、もういいから······」
「良くねえだろ!性別で先にバカにしてきたのはこいつだ!それなのに自分の事となると必死になる。教師の風上にも置けねえ!」
泣きそうになって、床に座り込んだまま唇を噛んで耐えていると「なーにしてんの?」と聞きなれた声が聞こえてきて顔を上げた。
「高良先輩······」
「千紘ちゃんが泣いてるよ。何してるの?」
先輩が優しく頭を撫でてくれる。それから匡と先生に向き直った。
「こいつが千紘がオメガだってことを馬鹿にした。」
「······は?何それ。」
生徒会である高良先輩に睨まれた先生は、さっきとは違って萎縮してる。アルファ2人の圧力はあまりにも大きいらしい。
「提出するはずだったプリントが発情期中で出せなかったんだ。そしたら"これだからオメガは嫌なんだ"って。」
「へぇ?千紘ちゃんの発情期の届けは出したはずだよ。ねえ先生、性別で判断するなんていけないことじゃないんですか?······これは会長に話しておかないとね。」
高良先輩がそう言うと、先生は顔面を蒼白させた。それから助けを求めるように辺りを見回しそばにいた先生を見るけれど、誰も関わりたくないとこちらを見向きもしない。
「千紘ちゃんはとりあえず、汚れるから立ってね。」
「······先輩」
「大丈夫。俺は千紘ちゃんの事が好きだから。」
オメガとして俺を見ない先輩は優しい。
俺を否定しない物言いが心に沁みて、余計に涙が溢れる。
「ほら、もう寮に帰りな。君は責任もって2人を送り届けて。」
「何であんたの指図を······」
「あれぇ?先輩にそんなこと言っていいの?」
「ちっ······わかったよ。優生、千紘、帰るぞ。」
立ち上がって職員室を出る。
まだ泣き止まない俺に、匡も優生君も何も言わなかったけど、泣いている俺が周りから見えないように、2人の背中で隠してくれた。
「2人とも、ありがとう。」
「また何かあったらお前ら2人は俺が守ってやる。」
「心強いなぁ。」
俺の友達はすごく優しくて、友達想いで、俺って幸せ者だなぁって思った。
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