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第38話

「赤目君はなんて言うか······お兄さんとは違うんだねぇ。」 「兄貴の話をするな。うぜぇ」 先輩を無視して、食堂の方に向かう。 コピー機は運良く誰も使ってなくて、小銭を入れてささっとコピーした。その間も何故か隣にいる先輩。もしかして暇なのか。 「何してる······んですか」 「暇だから見てるだけだよ。気にせず続けて」 「飯の時間でしょ。食べてくればいいのに」 「さっき食べたよ。あとは風呂入って寝るだけ。」 それなら早く部屋に戻ってくれ。本当のことを言えば、わざわざ絡んでこないで欲しい。 「何で仲悪いの?お兄さんも君のことを話したがらないよ。」 「······あいつが親の言いなりだからじゃねえの。」 「じゃあ君は反抗してるんだ?うんうん、それは君が正解だと思うよ、俺は。」 「わかったから、どっかに行ってくれ。······俺は部屋に帰る。」 コピーを終えてプリントとノートを持って部屋に帰ろうと踵を返すと、先輩が俺の腕をガシッと掴んだ。 「······千紘ちゃんのこと、狙ってないよね?」 「さあな」 適当に返事をすると、胸倉を掴まれ、すごい力で壁に押し付けられた。ぶつけた背中が少し痛い。そのまま、鋭い目で、じっと見られて感じたことの無い感覚が体に走り、思わず硬直した。 「ん、んー······よし。赤目君はまだ、俺から何かを奪える感じじゃないね。」 「は、はぁ?なんだよっ!」 手を叩き落として、逃げるように部屋に向かった。 戻ってきた部屋で、ドアを鍵を閉めてズルズルと座り込む。 「······怖かった。」 さっき感じたのは確実に、恐怖だった。 もしかしなくても、あの先輩は千紘を狙ってる。狙ってるオメガを取られるかもしれないと思うと、アルファはあんな風になるのか。 「······恐ろしいな。」 ただただ、そう感じた。

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