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第54話 千紘side
たっぷり休んで、翌日は何も無かったみたいに学校に行った。
匡には運命の番に会ったこと、昨日は動揺して休んだって事を話してすごく心配されたけど、実家に帰るから大丈夫だよって伝えると、目を見開いて固まった。
「辞める気か?」
「辞めないよ。せっかく受験で生き残ったのに。」
「じゃあ何で······」
「母さんに報告する。何も伝えれてないから。」
匡と話せるのはいいんだけど、優生君とは話せていない。匡が俺から離れたタイミングで「優生君」と話しかける。
「話しかけないで」
「え······ぁ、ごめ、ん······。」
え、な、なんだろう。
俺何かしたっけ?
心がグラグラと揺れる。
少しは治まっていた動揺がまた酷くなって、始まった数学の授業に集中ができない。
「じゃあこの問題解いてみろ。」
先生がそう言って、教科書に視線を落とすけれど、いつもはできるはずの問題が解けない。
シャーペンを握って真っ白なノートを眺める。それより先に進めない。
「赤目、答えを書きに来い。」
匡が黒板に近づいて答えをスラスラと書いていく。ああそうだ、そうやって解くんだった。
遅れてシャーペンをノートに走らせる。
······何、しちゃったんだろう。
俺の数少ない友達なのに、いつの間にか怒らせてしまった。
でも何かをした記憶はないんだ。
視界が滲み、ノートに斑点が落ちる。
乾いたポタポタという音が、今はみんなに聞こえるんじゃないかって恥ずかしい。
「じゃあここは松舞。······松舞?おい、どうした。」
「······っ」
先生が傍にやってきて、俺を立たせて教室の外に連れ出した。
「保健室に行ってこい。落ち着いたら戻っておいで。」
「ごめんなさい」
「入学したばかりで環境にまだ慣れてないんだろう。少しずつ慣れていけばいいから、今は無理するな。」
数学の先生は優しくて好きだ。
ありがとうございますと頭を下げて、保健室に向かう。
嫌だな。こんな、弱い自分が嫌だ。
「──何してる。」
「ひっ!」
廊下を歩いていると、香ってきたあの匂い。
顔を上げて前を見ると会長がいて、体が勝手に惹かれていく。
「おい、なんで泣いてるんだ。」
「か、いちょう······」
「どこに行くつもりだった?連れて行ってやる。」
会長の手が肩に触れる。
途端体がブルっと震えて力が入った。
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