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第56話

「そうです。理解してください。」 「人間はすぐに気持ちが変わる。それを毎度毎度理解しろって言いたいならお前は相当なエゴイストだな。」 「······会長とは合わないです。やっぱり運命の番とか嘘だ。」 「残念だが本当だ。お前が今怒っているのが匂いでわかる。」 そう言われてみれば、会長から香る匂いが今は冷静で落ち着いている。海みたいな、寛大な感じがする。 「お前も俺の匂いがわかるんだろう?だから嘘じゃない。」 なんで、なんで······この人なんだろう。 何をどう思って神様は、俺と会長を繋げようとしているんだろう。 「······高良先輩が良かったです。」 「······何?」 「高良先輩は俺に優しくしてくれました。いつでも俺を守ってくれるし、理解しようとしてくれます。会長みたいに圧力で押さえつけたりしない。」 「なら俺に出会う前に高良と番になっておくべきだったな。その機会はあっただろう?」 そうだ。あの時拒否しなければよかった。 先輩を受け入れていればこんなことにはならなかった。 「······教室に戻ります。ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。」 「迷惑ではないが、廊下で1人で泣くのはやめておけ。お前はオメガだ。発情期でなくてもアルファに狙われる。気をつけろ。」 「ご忠告どうも。」 「······可愛くない。」 可愛げなんてあってたまるか。 腹が立ってうるさい音を立てて保健室のドアを閉めた。 ズンズンと歩き教室に戻る頃には授業は終わりそうで、日直が「起立」と声をかけているところだった。 「ありがとうございました。」 そのタイミングでチャイムが鳴り、匡のところに走る。 「匡!」 「ぁ、お前大丈夫か?」 「お、俺、優生君の事、怒らせたみたいだ······。」 「は?······もしかしてそれで泣いてたのか?」 頷くと匡に呆れたような顔をされてしまった。

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